第2話 夫は私をガン見した

 侍女曰く、ドレスは女性の戦闘服だそうだ。


 殿方を虜にするためだとか、同性に見下さられないようにするためだとか、そんな理由でらしい。


 19才にもなって社交界に全く縁のない私には、よく理解できない感覚だ。


 だから、されるがまま身支度を整えてもらって、待ち人がいる客間へと足を運んだ。


 そもそもクラム伯爵家の当主であり、ここの主人であるはずの旦那様が客間で待たされているのもおかしな話ではあるけど。


「お待たせしました、旦那様」


 部屋に入ると、私の旦那様であるメルキオールさんはソファーに座っていた。


 座ったまま、部屋に入った私をガン見していた。


 黒い髪に褐色の肌は男性らしさを醸し出していて、それでいて上品で優しげな目元を強調する青い瞳。


 うん。


 客観的に見ても素敵な男性だから、私が妻なのが、今さらながらに申し訳ないな。


 メルキオールさんの祖父である侯爵様の命令で私と結婚させられた可哀想なこの方は、世の貴婦人に大人気のとても端正な顔立ちをされている。


 物腰も柔らかい方だから、尚の事たくさんの女性を惹きつけているらしい。


「君は……本当にアシーナなのか?」


「はい、アシーナです」


「随分と……ふっくらしたんだな……」


 その言葉を聞いて、自分を一度見下ろして、また顔を上げてメルキオールさんを見た。


 猫とゴロゴロしてばかりの生活で、懸念していた事ではあった。


「はい、おかげさまで、何不自由ない生活を送らせてもらえたので……ごめんなさい……太り過ぎですか?」


「いや、すまない、失言だった。別に、太っていると言ったつもりはない」


 メルキオールさんは、気まずさを誤魔化すように視線をテーブルに乗ったカップに向けた。


「それで、ご用件は……?」


「ああ……その……」


 人のいい旦那様は、言い出しにくいのかな。


「離縁についてでしょうか?」


「君は、離婚したいのか?」


 その言葉を聞き、さも驚いたかのように、旦那様は目を見開いている。


 あれ?


 違ったのかな?


 間を取り持つように、こほんと咳払いをした旦那様は、


「いや、その……仕事がひと段落したから、君の様子を見に来たんだ」


 三年ぶりにですか?


 と、思ったままを口にはできなかった。


 嫌味のようだから。


 決して、メルキオールさんに不満を言うつもりはない。


 それは、本当だ。


 季節ごとの手紙のやり取りはあったし、メルキオールさんが私が領地から出る事を嫌がっていたというだけで、その他の嫌なことなど何もされていない。



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