代引きの荷物

@J2130

第1話 

「堀さん、聞いてよ」

 出荷作業をしてもらっている物流会社の事務の女性に声をかけられました。


 僕はメーカーの物流担当として倉庫に勤務していますが、その倉庫には弊社の関連会社である物流管理の会社や、運送会社の事務所もあります。

 一日に何度も僕はそちらに行ってお話をしたり、送状や納品書や伝票をもらったり渡したりしています。


「うちにね、代引きで3万円の荷物がきたのよ…」

「代引きで3万ですか…、僕だったら現金、たぶん持ってないです…」

「そうよね…、でもたまたまあったの…」

「荷物はなんですか…、家具とか家電とか…」

「それが息子宛てでね…兄弟で買ったらしいの…」


 年頃のお子さん宛ての荷物か…。

 確か大学生と高校生のお子さんがいらしたな。

 変なDVD、まさかね…、コンビニ受け取りとか考えるよな…。


 それだとしても3万は高いな…。


「大丈夫でしたか…、その、男の子特有の荷物ではなかったですか…」

「それがさ…」


 女性は僕に薄いプラスチックのケースを作業用のエプロンのポケットから出して見せてくれた。


「これが何枚も入っていたの…。全部同じCDよ…」

 確かに手には数枚握られていた。


「これA〇Bの『○○〇日の紙飛行機』という曲ですね」


「そうよ、何枚も何枚も入っていたのよ」

 怒り半分、あきれた感じ、そんな話し方でした。


 僕はすぐに、なんというのかな…、ピンときた。

「ああ…、投票券とか握手券とか…」

「そうそう。そんなお金があるなら母親にケーキでもごちそうしてくれたらいいのにね…」

 朝ドラの主題歌にもなった、歌としてはすごくいい曲だが…。


「ブック〇フとかに出せばいくらかになるんじゃないですか」

「それがね、もう二束三文なんだって…。これだけ作ってたらね。それにうちだけじゃないし…」

 そうだ、同じ目的で“大人買い”する人、まさに大人が多いだろう。

 これはCDだけど、握手券だもんな…。

 否、きっと握手券だ…、CDの形をした。


「同じCDを何十枚もさ…、もうあきれる。これって悪〇商法じゃない、もう!」

 確かにね、音楽を聴くならCDは一枚で十分だ。


「まだ高校と大学生ですよね…、趣味ですから。ゲームや漫画や音楽や」

 あ…、一応これは音楽の趣味になるのかな…。


「そうなんだけどさ…、変な趣味にはまるよりいいけれど、代引きで3万もするものいきなりよ…」


「それは事前に言っておいてもらわないと困りますね。でもいい曲なので僕買いますよ」

「いいわよ、みんなにあげてるの…、もらってくれない…」

「いいのですか…」


「いいわよ、早くなくしたい!」


 結果として2枚頂いた。

 一枚は義父にさしあげた。

 いい曲ですからね。

 義父も喜んでいました。


          了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

代引きの荷物 @J2130

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ