二十八話 おにぎり推理
ルイスの前に、さまざまな資料が並べられている。カオッカの周辺の地図が描かれたおにぎり。今までのおにぎりピードの兆候に関する報告が書かれたおにぎり。過去発生したおにぎりピードの記録が書かれたおにぎり。多種多様なおにぎりが並べられた。
「資料も全部おにぎりなのか……」
プリマリアがそうツッコむ中、ルイスは真剣に一つ一つ情報を確認する。おにぎりをじろじろと見ているその姿はとても異様だ。
「どうだ、ルイス。何か分かったか」
スタルードがルイスに声をかけると、ルイスは資料の一つを口に放り込み答える。
「発覚したのは今日で、こちらに向かってくるとされる魔物の規模が五万体ほど……確かにこの規模、魔物の集まる速度、おにぎり度、全てが異様だな。もぐもぐ」
「資料を食わないでください、ルイス様」
ルイスはプリマリアのツッコミの後、ごくんと資料のおにぎりを飲み込んだ。そして何かを理解したような目つきでスタルードやお偉方にこう言った。
「だがなんとなくわかった。このおにぎりピード、裏で操っている奴がいるかもしれない」
……お偉方は息を飲んだ。彼らが予想していない答えが飛び出たようだ。
「裏で操っている……? 一体どういう事だ、ルイス」
スタルードが訝しくそう尋ねると、ルイスは事細かに説明をする。
「まず、おにぎりピードはおにぎりの美味しさに驚いて暴走する現象だから美味しいおにぎりが必要だ。よっぽど危険な土地じゃない限り、自然発生するおにぎりは味も量もたかが知れているからこの速度で魔物が集まるのは不自然だ」
「そもそもなんでおにぎりが自然発生するんですか……。そこからして不自然でしょうが」
「だが誰かがおにぎりを自前で作ったとしたら? 美味しいおにぎりを五万個作って魔物達に配布すれば、おにぎりピードは自然に出来上がってしまうんだ。だから何者かがこの都市を襲うためにおにぎりをばらまいたんだ」
「もうちょっと簡単というか、ちゃんとした暴走させる手法は他にあったんじゃないですか?」
ルイスは要するに何者かが美味しいおにぎりをばらまいて魔物達を意図的に暴走させたのだと推理したようだ。ちょくちょく不自然だったのでプリマリアのツッコミが挟まったが、ルイスは気にしていない。
「なるほど……確かに遺跡周辺を調べていたおにぎり士からは、その土地に灰色に汚れた美味しそうなおにぎりが見つかったと報告されている。あれは何者かにばらまかれた餌だったという訳か」
「『灰色に汚れた』ってのはあんま美味しそうじゃないんですが。土くれおにぎり食べ過ぎて『美味しそう』の基準がバグってません?」
スタルードは納得したように報告された情報を思い返す。どうやらおにぎりピードの発生地付近で灰色に汚れたおにぎりが見つかっており、誰かがそれをばらまいたのだと気づいたようだ。汚れたおにぎりを「美味しそう」と表現するのはどうかと思うが。
「そう、その灰色おにぎりの見つかった場所の近くで今回の黒幕がいまだおにぎりをばらまいているはずだ。そういう戦法は千年前からの常套手段だ」
「嘘を言わないで。そんな常套手段知らない」
「そして誰かがその黒幕を直接倒せば、魔物達の興奮は収まるはずだ。そうすれば被害を最小限に抑えておにぎりピードが終わる」
「黒幕倒しただけでそんな簡単に興奮収まるか……? さっきから理論がめちゃくちゃだと思うんだけど……」
ルイスが言うには、その発生源の近くで黒幕がまだいるようだ。そしてその黒幕を倒せばおにぎりピードは収まるとも断言した。プリマリアの言う通り理論はめちゃめちゃだったが、ルイスは自信満々である。
「なるほど。やはりルイスはおにぎりに詳しい。よし、それを踏まえて人員を配置する」
「そうですね。これなら用意するおにぎりも少なくて済みそうです」
「信じちゃったよこの人ら」
そしてその推理を聞き、スタルード並びにお偉方が対策の変更を決めた。ルイスの言葉をあっさり信じる彼らに、プリマリアは少し不安を覚えた。
「……ルイス。プリマリア。お前たちは明日の朝、シガフィーノ遺跡まで行って黒幕を討伐してくれないか。難しい任務だが、信頼できるお前たちに頼みたい」
そしてスタルードは、ルイスとプリマリアに黒幕の討伐を依頼する。その表情は雑念の無い真剣な物である。
「分かった。報酬は弾んでくれよ」
「もちろんだ。報酬として特別に床に落としたらぽよんぽよんと弾むスーパーおにぎりをやろう」
「報酬弾むってそういう意味じゃないでしょうが。というか、それもはやおにぎりじゃないでしょう」
こうしてルイス達はぽよんぽよん弾むスーパーおにぎりを報酬として約束され、シガフィーノ遺跡まで行く事が決まった。プリマリアは報酬にツッコミを入れた。
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