二十話 おにぎり錬金
「よし。もうすぐ寝る時間だから俺の分のベッドを作るとしよう」
「『よし、風呂に入るか』みたいなテンションで結構時間かかりそうな作業やるのかこの人?」
ルイスとプリマリア、二人はギルドで貰ったカラフルなおにぎりを持って宿屋の自室に帰った。宿屋で夕食(おにぎり)や風呂(おにぎり)や明日の準備(おにぎり)などを済ませ、夜も更けてきた頃にルイスは突然ベッド制作をしようと言いだしたのだ。
「昨日はプリマリアが気持ちいいベッドを独り占めしたいと言ったから俺が床に寝ることになったわけだが、毎日床に寝ているだけだと回復する体力も回復しなくなる。だから体力配分を考慮して、いますぐベッドを作るとしよう」
「こんな時間にベッド作りだすのは体力配分をだいぶ間違えてると思うんですが。あと、さらっと私のベッドの独占理由を捏造しないでください」
「おっと、勘違いしないでくれプリマリア。俺は何も一から材料を組み合わせてベッド制作するなんて重労働をするわけじゃない。俺がやるのは『錬金』だ」
プリマリアはルイスが計画性を完全に無くしてしまったのかと失望した表情で眉間にしわを寄せたが、ルイスは重労働ではなく『錬金』をするだけだとすかさず訂正を入れた。
「錬金とは、金属を作り出す技術だ。主に錬金術師と言う職業が習得する技術で、金属でない物に魔力を付与して加工する事で素晴らしい硬度の金属を作り出す事ができるんだ。今回はこれを応用してふかふかのベッドを作り出すぞ」
「金属作る技術でベッド作り出すのは応用を通り越してる気がしますけど大丈夫なんですか……?」
「大丈夫大丈夫。さ、さっそく作り始めようか」
ルイスは軽く錬金について説明をし、そして準備に取り掛かる。
ルイスは道具袋から大きな机、フラスコやビーカーのような物をいくつか、すり鉢っぽい奴、火を起こせそうな道具、よく分からない何か……などなど。実験器具らしき物を取り出し、部屋の中央に置く。
「勇者がそういう器具常に持ち歩いてるのはだいぶツッコミポイント高いと思うんですけど。よくそんなもん持ち歩く余裕ありましたね……」
「そういう勇者だっているさ。じゃあこの機材たちを使ってベッドの作り方を教えよう」
「そもそもこの機材でベッド作るのは無茶では?」
プリマリアの微妙そうな表情を無視して、ルイスはすり鉢に草のようなものを少量入れすり潰し始めた。そしてつらつらと作り方の説明を始める。
「まずは薬草をすり潰す。この薬草は草原でとれる普通の物で大丈夫だ」
「……
「次にすり潰した薬草を水の中に入れ、火をかけて一煮立ちさせる。長時間煮ると薬効成分がなくなるからプリマリアも試すときには注意してくれ」
「いやこれ絶対
「そしてこの一煮立ちさせた液体を専用の器具で抽出する。この作業が一番大事で、下手にやると品質が下がって
「完全に
「で、その抽出液を一時間熟成させるとベッドが完成する。という訳だから最後はしばらく待つ必要があるな」
「なんか突然思い出したかのようにベッドが挟まってきたぞー!? なんで
……ルイスの説明した作り方は意味不明であった。いつもの事である。
***
薬草をすり潰したり煮立たせたり抽出したり熟成したりして、およそ一時間経った。
「よしできた。いい出来栄えだ」
出来上がったのは、人がのびのびと寝転んでもしっかりと支えてくれそうな大きなベッド。本体部分は百パーセント国産米を使用しており三角形のしっかりとした安定感が魅力。マットレスはねっとりとした感触の美味しいお米を贅沢に使われていて、ホカホカした湯気が三角形の形状と相まって食欲をそそる!
「要するにおにぎりじゃねーか」
「当然だろ」
「『当然だろ』じゃねーんだわ、このパターンになって当たり前みたいな表情をするな」
……出来上がったベッドはやっぱりと言うかなんというか、結局おにぎりだった。こういう結果になって当たり前、みたいに得意げな表情をするルイスに対してプリマリアは粗暴なツッコミを投げつける。
「これがおにぎり錬金だ。この技術は、どんなものだって百パーセント国産米の美味しいおにぎりに変える事ができるんだ」
「あんたはおにぎり生産する以外できる事無いんですかねぇ……? 勇者だったらもっとかっこいい技術見せて欲しいんですけど。あと、薬草使って作ったんだから百パーセント国産米は嘘でしょうが」
「そしてこのおにぎり錬金は完成品に魔力を付与する事で、エンチャントをする事ができるんだ。これにより、出来上がったおにぎりに追加効果を付与できるぞ」
「だめだ。こっちの話を聞いちゃくれねぇ」
おにぎり作り以外の特徴を全然見せてくれないルイスに呆れるプリマリアだったが、ルイスはウキウキとおにぎり錬金の説明を続けていて気にしている様子はない。私と話が通じない生き物なのだろうか、とプリマリアは思った。
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