十二話 おにぎり朝食
「お待たせしました味噌焼きおにぎり!」
しばらくどったんばったん音が鳴った後、味噌焼きおにぎりちゃんがおぼんとそれに乗った何かを持ってルイス達の元へとやってくる。
「今日の日替わり白おにぎりは『炭火焼炭風黒焦灰~ゴミ風味仕立て~』で味噌焼きおにぎり! ゆっくり召し上がれ焼きおにぎり~」
「名前があからさまに駄目じゃんかー!? 色も白じゃないしーっ!」
味噌焼きおにぎりちゃんが差し出してきたのは、明らかに駄目な気配しかしない名称の何かだった。ちなみに見た目は、まさに『炭火焼炭風黒焦灰~ゴミ風味仕立て~』と言うべき見た目である。ようするにゴミにしか見えない。
「味噌焼きおにぎりさん! 私、炭みたいなおにぎり嫌って言いましたよね!? 普通のおにぎり持ってきてくださいよ! こんなの、私たちは絶対食べませ
「もぐもぐ。ふむ、これが炭火焼の風味か。もぐもぐ」
「ルイス様、私が拒否する間もなく食べ始めないでくださいよ!? 我慢ができない食いしん坊なんですか!」
プリマリアは明らかに危険なおにぎりを断固拒否しようとしたが、いつの間にかルイスはそれを静かな表情で食べてしまっていた。プリマリアは何考えてんだこいつと言わんばかりの顔つきでルイスにツッコむ。
「香ばしいゴミのような味。焦げすぎた灰の香り。不快な食感。そして俺のほっぺたがたった今落ちた点。それらは評価すべきだが……残念ながらそこを考えても出来が悪いおにぎりかも知れないな」
「それらのどこに評価点が入る余地があるんですか。どれも減点対象でしょう。あとほっぺた落ちたのに冷静にレビューしてる場合じゃないでしょ。さっさと医者行った方が良いですよ」
ルイスはほっぺたをぽとりと床に落としながら冷静におにぎりの評価を下した。見た目からして分かると思うのだが、どうやら出来の悪いおにぎりだったようだ。プリマリアは落ちたほっぺたを見つめながら渋い表情をしている。
ルイスの評価を聞き、味噌焼きおにぎりちゃんはしょぼんと落ち込んだ。そして事情を説明し始めた。
「やっぱり気づいちゃったで味噌焼きおにぎりね……。実は味噌焼きおにぎりは、おにぎりを作るのがちょっと不得意で味噌焼きおにぎり……」
「これはちょっとの範囲ではないと思うんですが」
「それが原因で、客足も伸び悩んでるんで味噌焼きおにぎり。このままじゃ宿屋の経営が立ち行かなくなって大爆発が起きちゃうで味噌焼きおにぎりぃ……」
「経営が立ち行かなくなるとなぜ大爆発が起こるんですか……?」
どうやら味噌焼きおにぎりちゃんは「ちょっと」おにぎりを作るのが苦手で、そのせいでこの宿屋は大爆発の危機に瀕しているらしい。どう考えてもちょっと苦手どころではないし、大爆発の流れもよく分からない。
プリマリアは思った。「この宿屋、やっぱ危険だから今日限りで逃げよう」と。まぁ至極当然の思考ではある。思いいたるまでが遅すぎる気もするが、色々ツッコみ忙しかったので仕方がない。
だが。
「……なら俺が今日からしばらくおにぎりの作り方を教えてやろうか?」
「えっ!?」
「みゃっ!?」(注:味噌焼きおにぎりっ!? と言っています)
ルイスは味噌焼きおにぎりちゃんの頭をなで、おにぎりの教授を提案した。
その提案を聞くや否や、プリマリアは絶望した表情に。そして味噌焼きおにぎりちゃんはきらきらとした目になった。
「ルイスさん、おにぎりを作れるで味噌焼きおにぎり!?」
「あぁ。もともとここの料理がまずかったら自分で作るつもりだったし、そのついでだ。俺のおにぎり数値は高いから味噌焼きおにぎりちゃんに教えるくらいなら申し分ないだろう」
「わーい! 味噌焼きおにぎり、おにぎり数値低いから高い人に教えてもらいたかったで味噌焼きおにぎり!」
「こんな危険な場所さっさと去りたかったのですが……。と言うかおにぎり数値っていったい何ですか……」
プリマリアは楽しそうにおにぎり数値とかよく分からない単語を言ってる二人を見て頭を抱えた。ルイスがこのまましばらくこの宿に滞在する事が確定してしまったからだ。
こんな危険そうな場所に数日滞在するのは嫌だ。もういっそ、一人で逃げてしまおうか。でも最強の勇者であるルイスと千年前に契約したせいで現在位置を特定する魔法を使われたらすぐ見つかってしまう。契約を破棄するのは結構難しいし、それにルイスを放置したほうが逆に問題が増えそうな気もするし、それに……。
===
『ルイス様。また私を召喚できる日が来たら、その時は……』
===
プリマリアは一瞬千年前の記憶を思い出したが、ぶんぶんと頭を振って一旦忘れる事にした。とにかく、ルイスを無視して逃げ出すなんてできない。そんな事を考えながらプリマリアは深いため息を吐いた。
「よし。今日の予定まで少し時間があるからさっそくキッチンに行ってお手本を見せてやろう。プリマリアはここで待っててくれ」
「分かったで味噌焼きおにぎり! 頑張って人が死なないおにぎりを作るでおにぎりー!」
「その目標はめちゃくちゃ低いのでは……? というかあなたが現状で作れるおにぎり、人が死ぬほどなの……?」
そしてルイスと味噌焼きおにぎりちゃんは、プリマリアの暗い表情のツッコミを気にも留めずおにぎりの作り方を伝授するために厨房へと向かっていった。プリマリアとほっぺたを食堂に残して……。
「いや、落ちたほっぺたは放置すんなよ!?」
プリマリアは気分が沈んでるにしては、力強いツッコミを放った。
***
……しばらくすると厨房の方向から音が聞こえ始めた。
ぎゃしゃっ。
ぐわわわわっ。
どんどんどこどん。
きらきらきらーーーーーーーーん! ばぎゅーーーーーん! きゃきゃーーーーーーーーっ! うおーーーーーーーーーーーーんっ!
「また不安になるオノマトペ鳴ってるんだけどっ!? 一体何を教えてるのルイス様は!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます