推し活合戦〜茸筍編〜

麻倉 じゅんか

終わりなき戦い

 朝。外はまだまだ肌寒い。


 校舎に入って、風が遮られて、少しはマシに……と思っていたけれど、期待は裏切られた。まだまだ寒い。


 なので俺は教室を目指した。

 教室ならエアコンが効いているはずだから。


 時間は少し早いけれど、エアコンはもうついているはずだ。

 地上の楽園を目指す僕の足は、考えずとも早くなっていった。




 ……楽園?

 いいや、そこは地獄だった。


 『エアコンがついていなかった』というわけじゃあない。

 『戦場という名の地獄』だったんだ。


 ――ああ、ゴメン。驚きのあまり言葉足らずになってしまった。


 もう少し詳しく言うと、幼馴染のクラスメイト、あかりおさむが怒鳴り合っていたんだ。

 ――他に誰もまだ来ていないような時間だったから良かったものの、互いに睨み合って舌戦を繰り広げていた。


「あんなヤツのどこがいい!」

「アンタこそわかってない!」


 ……一応言っておくと、あの二人はつき合ってない。


 かといって、ここまでケンカする仲でも無かった。

 なので厄介な揉め事ではないとふんで、俺は仲裁するべく二人の間に割って入った。


「まあまあ、二人とも。もうすぐクラスのみんなも入ってくる。ここは穏便に……」

「済ませられるか!」

「アンタは、私と同じ意見よね!」

「いいや。俺だろう、ここは」


 ……全然、冷静になってくれそうもなかった。


「同じもなにも、一体何を話していたの?」

「「キノコかタケノコか」」


 …………。

 ようやく分かった。どうやら俺は入ってはいけない論争の間に入ってしまったようだ。


「当然キノコよね!」

「いいやタケノコだろ!」


 ――せっかくエアコンの効いた教室に入ってきて快適になったと思ったのに。

 無駄に熱くなった二人が迫ってくるせいで、熱苦しくてかなわない。


「タケノコはいいぞぉ〜」


 いきなり治のプレゼンが始まった。


「サクサクしたクッキーに、とろけるような食感のなめらかチョコがたまらない!」


「それのどこがいいって?」


 対抗して明もプレゼンを始めた。


「硬めのチョコに、これまた硬くて太い棒状のビスケット。

 でも硬すぎず大きすぎず。頬張って噛み砕いた後の甘さは、なれると病みつきになるわ」


 それを聞いた治が何故か股間を抑えた。

 ……お前、何を連想した?


「「さあ、お前はどっちを選ぶ!?」」


 どっちと言われても。


 どちらかをとればもう片方に角がたつこの状況。


 だが、この状況を打破する答えを、俺は知っている!(※当人の勝手な意見です)


「キノコ? タケノコ? どちらかだって?」

「……あ、『切り株』は無しだからな。あれ、メーカーが違うし」


 治が逃げ道を塞ぐかのようにしれっと注意してきた。

 しかし俺の答えはそうではない!


「治。それに明。そもそも争う必要があるのか、この問題」

「あるでしょう!

 例えば明日食べられなくなっちゃったらどうするのよ!? どちらか1つしか選べない状況になったとしたら!」


「そんな状況に陥ることがあったとして、その時、食べる物を選んでいる余裕があると思うか?」


「金がなくてどちらか1つしか買えない時は!?」


「好きな方を買えばいいだろう! わざわざ論戦することじゃない、他人の好みに自分の意見を押し付けるな!」


 たじろぐ二人に、俺は自分の意見を言った。


「……だから俺の答えは決まってる」

「結局どっちかを選ぶのね」

じゃない。選べばいいんだよ」

「2つも選ぶなんて卑怯じゃない」

「……いや待て。まさかお前」


 賢い治は気づいたようだ。


「そうだ。俺は『アソートパック』派だ!」


「……やっぱりズルくない?」


 自信を持って放った俺の意見に、しかし明の反応は冷ややかだった。


「何が!?」

「大体、どっちかしか欲しくない時にはどうするのよ?」

「残った方を欲しがるやつは目の前にいるだろう」


 治は自分自身を指して目を丸くしている。


「そのための友達だろう」

「そのための友達って、寂しいな」


「今回くれてやった分の恩は次回返してもらえばいい。

 『アソートパック』

 素晴らしいじゃないか。

 どちらも欲しいという人の願いを叶えてくれる。

 意見のくい違う者の仲を取り持ってくれる。

 俺はこれをオススメする!」


 ……といった所で、教室にぞろぞろ人が入ってきた。


 ある程度3人の熱も治まったし、俺たちは素直に解散した。


 しかし、熱はだけ。

 キノコタケノコにかけるそれぞれの情熱の種火は、まだくすぶっていた。


(いつか良さを分からせてみせる!)


 3人ともそう思っていた。

 ……戦いは終わらないようだ。

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