第7話

苦いコーヒーに顔をしかめれば、角砂糖を入れろと教えられる。ママの言う通り二つほど溶かせば、ほんのり甘いコーヒーに早変わり。更にママはミルクを足して「カフェオレよ」と教えてくれた。


ママのお店には異世界の食べ物しかないらしい。

ママ曰く、「アタシにとってはここが異世界なのよ。どう考えてもこの世界の食べ物はマズいわね」と容赦ない。


ママの言っている意味がよくわからないけれど、素直に受け取れば「ママは異世界人」だと言ってない?


普通異世界人だなんて聞いたら驚きもする気がするのだけど、ママの風貌からして「あ、うん、そうなんだ」と妙に納得してしまうわたしもいて――。


それに、ママの作り出す料理がどれも魅力的で興味深い。

見たことのない食材ばかり使うのだ。本気でこの世界の食べ物を使う気はなさそうな、そんな感じ。


「昨日包丁の使い方は教えたわよね。アタシはちょっと用事で出かけるから、下ごしらえしておいて頂戴。それがアンタの仕事よ」


「どこ行くの?」


「アタシ、向こうにも店を持ってるわけ。ちょっと顔出してくるわ」


「向こう?」


「ポッと出のアンタに教える義理はないわね」


「ぐっ……!」


確かに!確かにそうだけども!そりゃ昨日行き倒れて無理やり押しかけちゃったわたしに何でもかんでも教えるなんてことはないだろうけどさぁ、もうちょっと言い方ってものがあるじゃないの。


と、ぐぬぬとなっているうちに、ママはわたしに目もくれず「ついてくるんじゃないわよ」と言い残し、さっさと奥の扉へ消えていった。


キッチンには「じゃがいも」と「たまねぎ」と「にんじん」が置いてある。皮をむいて一口大に切っておくことが「下ごしらえ」らしい。どれも私にとっては初めての食材。


「えっと、まずは皮をむけばいいのよね……」


わたしは包丁を手に取る。確かに勇者が扱う剣よりはずいぶん小さくて扱いやすいけれど、これはこれで難しいと思うの。それに「じゃがいも」はゴツゴツして皮が剥きにくいし、「にんじん」ってどこまでが皮なのかよくわからないし、「たまねぎ」はなんだか目がチクチクと痛い。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る