『迷宮戦隊ハデス4』爆誕!~田原総一朗全面監修初作品(本作はお蔵入りしました)

神無月ナナメ@カクヨム住人(非公式)

この物語はフィクションです(断言)

 またも早朝から迫る大怪獣の着メロ……ため息をついた佳二。だがしかしメールを読み進めながら頬が引きつるのを認識した。

「バカじゃね」つぶやく悪態だ。もちろん傍らには誰もいない。


 現在時刻を確認しながら今後優先すべき順位に頭を巡らせる。状況は幸いだった。急ぐ実務の類はすべて五階の法律事務所だ。常駐することになった新人弁護士のマナエさん。丸投げできる。


 ミナミちゃんは自己鍛錬(なんだろう)。勤しむ毎日だった。カナエさんは近くにある大学。製薬会社から逃げまわっている。


 永依とココは隣室で爆睡だ。たぶん階下の三人も予定はない。「仕方がないか」ちいさくこぼしながら身支度を始める佳二だ。



「ちっと早いがみんな揃ってるようだな」おおきな地声。店内に響くと視線まで入口の扉に全集中された。ちいさな身体に高級感あふれるブランドスーツと黒革靴。もちろん英田副総裁である。


 近頃ボディガードすら同伴しないらしい。背後から現れた姿は灰色の老人だ。グレーのスーツに白銀髪。肩からおおきな鞄だ。


「古い友人の田原総一朗さん。若い連中以外はしっとるだろう。有名なリアル政治討論番組。朝まで生テレビの司会者だからな」

 閣下の言葉に全員うなずいた。ココだけはいぶかしげな様子。


 事前に佳二から簡単に説明されたから店に混乱も起こらない。まとまってテーブル席に集まったのが当事者だ。今回の主人公?

 永依。ココ。アイさん。美里。鈴音。佳二。階層の討伐組だ。



 そもそも始まりの早朝メール。内容それ自体が不可解だった。閣下の旧友なのか? 有名な田原総一朗さんから突然の依頼だ。まもなく米寿の誕生日……「古い約束」借りを返せと迫られた。


 閣下も忘れるぐらい昔の賭け事……いまさら無効と主張するも否応なし。ダンジョン内で映画撮影したいからと押しきられた。

 なんとかならないのかと泣き言。メールに佳二も呆れたのだ。


 とりあえず大人で相談……笑う鈴音さん。呆れる美里さんだ。最善策を提示した。いつもと同じ頼りになるカナメ先輩である。



「神戸の救出作戦で使った全身スーツ。あれ応用できるじゃん。色違いのカラフル。誰かもわからない。特撮戦隊モノだよね?」

「はぁ!?」のけぞるように驚いた佳二。全員に笑われるだけだ。


 意外なことだけど三人は伝えられた内容に呆れながらも了承。なぜか誰がどの色。使用したい色で争いまで始まっていたのだ。


 永依はピンク。ココがブルー。美里さんはレッド。鈴音さんがホワイト。魔女っ娘アイさんは永依のお願い。闘いに不参加だ。


 巻きこまれた佳二。魔女っ娘を侍らした漆黒のリーダー役だ。

「似あうよねーアッハッハ」笑う永依。無理やり押しきられた。


 なぜか閣下まで話を聴いて大笑い。そのまま参加を表明した。自称監督さん。ジャーナリストである田原総一朗も笑って了承。カメラは魔女っ娘に任せることにして演出に専念したいらしい。



 なぜか勢いままダンジョンに再突入。同じ八人でも編成が……「これから8人。階層主に挑戦するからね。扉早く開けてよ?」

 再び偉そうに聴こえる台詞の永依だ。佳二の頭痛も悪化する。


【階層ノ主ニ挑戦ガ了解ダ】プラス【討伐者ノ確認デ難度上昇】――扉前にいる全員ほぼ同時だ。いつもの機械音が脳内に響く。


 ほぼ天井まで達する三つ首地獄犬ケルベロス。巨大な一本の角が際だつ。全身黒長毛が覆う。細長い腕。巨大下半身の両脚。前回と同じ。



「ギリシャ神話じゃ冥府の番犬だな。 三つの頭部に蛇の尾っぽ。胴体には何匹もの蛇頭……見えないな。ヘラクレス最後の仕事。素手で捕まえて連れだした。あとから冥府に戻したらしいがね」


 下調べしたんだろう田原総一朗さんの言葉だ。全員納得する。

「頭の3つ。それぞれが『保存』『再生』『霊化』象徴らしい。死んだあとで魂の辿りつく順序といわれる」説明が続けられた。


 一瞬だけ目線を交わしたココと永依。左右から同時の跳躍だ。左右の頭部。強力で無比な回し蹴りを食らわせる。衝撃で背後に二つ首が弾けて中の一番巨大頭部。双眸と二人がにらみ合った。


 怒りの表情で巨大な上下の顎を拡げる。尖った歯をむき出し。威嚇する頭部に薙刀が一閃された。そこに投げナイフも追随だ。おおきく喉の奥まで晒した状態。そのまま巨体も硬直していく。



 永依が一本角に狙いを定める。ナックル入りグラブで特攻だ。

ココも左腕を突きだす。尖った爪先を胸の最奥部に突き刺した。


 かなりの衝撃に後方弾き飛ばされた巨体。無残な叫声だった。前後左右に揺らしながら暴れまわる黒い巨体だ。止めが刺さる。『心臓喰らい』スキルの発動だ。ココの一撃。心臓まで届いた。


 左の掌で引きずりだした巨大な心臓。笑みをうかべるとココが口内に放りこむ。咀嚼すると拡がる美味しさ。双眸まで細めた。


 しばしの間をおいてから地獄犬。巨体が円陣中央崩れ落ちる。うずくまる地獄犬。巨体を前に無言で拳をぶつける四人だった。


 傍らが小柄で激しい動き。巨大カメラを縦横無尽に構える姿。三角の黒いシルクハット。全身を黒装束で覆う魔女っ娘なのだ。



「カーット! エークーセーレンッ!! 見せ場だらけだったよ」

 入口で眺めるだけの監督だ。田原総一朗さんが拍手喝采した。あっけない終了。驚愕した閣下は双眸を見開いたままで硬直だ。


「映画館ならここでエンドロールか」……車いすで見守る佳二。


 無事撮影は終了したらしい。ここから階層主の素材回収場面は映倫なんだろう。各種の規定に触れるらしく撮影されていない。


 かなり後になった。閣下を通じて手渡されたのが編集映像だ。

「完全版」綺麗なBGM。田原総一朗さんによるナレーション。美しくまとめられた「特撮でない」映像。そのまま封印された。



 どこが悪いのかって? 言葉にはできない。うろたえる佳二。激しく揺れる……前線で闘うウサ耳ブルー。後衛のホワイトだ。


 結局のところわずか数分。まとめられた無音のヴァージョン。全世界に同時公開のyoutube映像。もちろん広告も入る。


「ダンジョンを目指さないか?」自衛官。警察官の勧誘だった。

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