第6話

それは真っ白な仮面だったのだ。



なんの絵も描かれていない、3つの穴が空いているだけの仮面。



「仮面」



呟いた瞬間背筋に寒いものが走った。



風が強く吹いて開けていたドアがバンッ! と大きな音を立ててしまる。



恵一は一瞬息を飲んでドアへと視線を向けた。



誰の気配も感じない。



だけど閉まっているはずの鍵が開いていて、あるわけがない仮面があった。



もしかしてこれは誰かが自分をハメるために準備したものではないか?



そんな考えだ脳裏をよぎる。



そして次に浮かんできた顔は大田の顔だった。



朝から恵一のわき腹を蹴ってきたあいつ。



あの男ならクラスの女子を使ってわざと恵一に噂話を聞かせ、ここまでおびき寄せることもあるかもしれない。



恵一ははじかれたようにドアへ向かって走り、勢いよく開けた。



もしかしたら校内から鍵がかけられたかもしてないと思っていたが、それは来たと

きと同様簡単に開いた。



階段にも踊り場にも誰もいない。



ホッとするのもつかの間、それではあの仮面は誰が置いていったのだとうという疑問が浮かんできた。



再び全身に寒気を感じて強く身震いをする。



ドアを開けたままにして、もう1度仮面へと視線を向けた。



あの仮面が噂の仮面かどうかはわからない。



でもここに置きっぱなしにしといていいものではないと思う。



例えば演劇部がここで練習をして忘れて行ったものかもしれないし、とにかく見つけた自分が回収して、それから考えればいい。



ゴクリと唾を飲み込むと再び仮面へと近づいた。



また強い風が吹き抜けて行ったが、今度はドアが閉まるようなこともなく恵一も足を止めなかった。



仮面の横にしゃがみこみ、それを手に取る。



指先に触れた瞬間電流でも流れたかのように手を引っ込めたが、太陽の熱で少し熱くなっているだけだった。



ビクビクしながらその仮面を取り上げると、恵一はすぐにカバンに仕舞い込んだ。



まるで万引きでもしたかのように慌てて屋上から校内へと戻り、階段を駆け下りていく。



あまり運動してはいけないという医者との約束も忘れて一気に昇降口までやってきてしまった。



背中には大量の汗をかき、呼吸が乱れてメマイもする。



恵一は下駄箱に体をもたれかけさせて深呼吸をする。



けれどいつまでたっても、心臓は早鐘を打ち続けていたのだった。

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