第6話 つばめの覚悟①

──「つばめ! おいつばめ!」


 新葉市高校の教室で授業を受ける生徒達。タイル張りの床で、開いた窓からは体育の授業で50メートル走をしているため、微かに話し声が聞こえてくる。黒板には英語の文章が書かれており、その和訳を生徒に答えてもらう流れであったのだが、上の空で授業に臨んでいたので流れさえもわからず、とりあえず名前を呼ばれたので、


「あ、はい」


 と空返事をしてしまう。


 先生はつばめが放心したような表情をしていたので、あえて指名したから答えれないのを承知で、「それじゃあ答えて」と言った。それに対し、つばめは返答に困り、正直に「すみません、聞いてませんでした」と返した。


 周囲の生徒には隠れて漫画を読んでいる人や居眠りをしている人が居たりする。そういった人は、真面目に授業を聞かないのが日常茶飯事なため特に目立たないが、つばめに関しては先生の間でも真面目な生徒というイメージができているので平常ではない。


「どうした? 珍しいな、いつも真面目なお前が」


「すみません、考え事をしていました」


 日頃の行いが良好だったため、「気をつけなさい」の一言で済まされたが、一日中こんな状態で過ごしてしまった。どこか集中できてない感じのまま放課後を迎え、帰宅する準備を始めた頃、


「よう! つばめ! 相変わらず孤独をエンジョイしているな!」


「強希くん‥‥‥来ると予想していたよ」


 昨日の今日で絡んでこない方が可笑しい。当たり前の発想である。


「確かに昨日の今日だし、めげずに遊びに誘おうと思ったが、今は絡むために訪問してきただけだぞ」


「え? 昨日の‥‥‥『雛罌粟のラミア』の命令とかではないの?」


「は? 何の話だ? 今日は成瀬と『アキュシュペイション』に行く予定だ」


 『アキュシュペイション』とは美容室の名称である。恐らくは誰かの付き添いかなと勝手に判断する。何故なら『アキュシュペイション』は女性に人気の美容室であるため、女性の付き添いなのは簡単に想像できたためだからだ。


 しかし、つばめの謎は深まる。予想ではラミアと強希は関係性があると睨んでいた。なので、同じ高校に通っていて、別のクラスで同級生の強希が訪問してくるのは覚悟していたのだが、とんだどんでん返しをくらう。つばめがどういうことか考えていると


「強希ー! 早く行かない?」


 と廊下から女子生徒の声が聞こえた。女子生徒の名前は『成瀬 表凪ひょうなぎ』。強希とは同じクラス。茶髪でショートヘアーの成瀬は、強希と一緒に来ていて、特にこのクラスの教室に用事はないため、廊下で待機していた。


「成瀬、悪いが校門で待っていてくれ。長話になるかも知れないから」


「しょうがないな、わかったよ」


 成瀬が立ち去った後、急に強希が真剣な表情になる。


「なあ、つばめ。お前は一年の時からいつも一人だよな」


「まあ、そうだけど‥‥‥」


 ストレートに事実を言われ心が痛み、つばめは俯いてしまう。


「何ていうか、その──ほっとけない、孤独で苦しんでいる奴も‥‥‥孤独を受け入れて打破しようとしない奴も」


「強希くん‥‥‥」


 つばめの心境は複雑になる。昨日の強希と今、目の前にいる強希はまるで別人だ。真実が知りたくて昨日の出来事について聞くことにして、「昨日のことなんだけど」と言いかけた時、


「待てつばめ」


 とつばめのクラスメイトが、会話を途切れさせるように声を掛けてきた。


「これ以上会話は禁止、ラミアから命令、輝き公園にいけ。死にたくなかったら」


 つばめと強希は驚愕する。その直後に既に帰宅の準備を終えていたつばめは、輝き公園へ急行する。クラスの連中もとっくに帰宅しており、残ったのは強希と言動が変なクラスメイトのみ。クラスメイトは全く喋らず白目を剥いたまま立っていたので、強希は怖くなって無言でその場を立ち去った。



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オブゼスカード 葉月 カイン @kaaain

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