オブゼスカード

葉月 カイン

第1話 プロローグ`

「やっぱり、博士が入れたコーヒーは最高だね」


 桃色の髪色でポニーテールが印象的な少女は、幸せに満ちた表情をしている。


「いつも言っているわよ」


 白衣を着た博士は椅子に座り、パソコンで何やら作業をしていたが、一旦休止して立ち上がり少女の方を向く。


「残念だけど今日のコーヒーはブレンドが全く違うのよ」


「えー! 嘘だよお! いつもと一緒だよ」


「実はブレンドに関しては毎日違うわ」


 少女は一気にコーヒーを飲み干し、博士を睨む。


「この前は騙されたけど、もう騙されないよお! 一緒! 絶対一緒!」


「見抜かれたか、成長したわね」


──これが、とある森の奥地に存在する小屋での日常。住んでいるのは1人の少女と博士と呼ばれる女性のみで、毎日を過ごしていた。だが、ここで生活するには理由がある。それはある現象を観測するべく、毎日行う日課があるからで、それが目立つ日課だからこそ森の奥地に住んでいる。


 そんな他愛のない話を十分程続け、博士が机の引き出しから何かを取り出した。


「そろそろエクスプロール装置を使うわ」


「はい‥‥‥博士」


 少女は複雑そうな顔で、博士からエクスプロール装置を受け取る。外見は球体の機械。それを少女は胸に当て、目を瞑る。


「起動──」


 少女が発言したと同時に小屋が綺麗な光に包まれる。


「博士、観測地点の座標をお願い」


「了解したわ、今日はここにしましょう──送信完了」


 パソコンの前に待機していた博士がエンターキーを押す。


「観測開始、ポイント1クリア、ポイント2クリア、ポイント3──は、博士!」


「ええ、遂に観測できてしまったわね、六ヶ月経過のデッドゾーン【アーマーン】観測」


「アーマーンですか!?」


「とにかく落ち着いて! いつも通り霧風くんに連絡を──って待って!」


 連絡の為、受話器を取ろうとした博士であったが、既に家のドアを開けていた少女に目をやる。


「博士! ポイント3、新葉市に向かいます!」


「ちょ、待ちなさい! 単独で行くのは危な──ああ行ってしまった」


 困惑した博士であったが、少女を追いかけるより先に連絡を急いだ。


「もしもし霧風くん? 急いで日本に来て!」


 森の中を走り続ける少女は一言呟く。


「お兄ちゃん‥‥‥」


──こうして新葉市での悲哀に満ちた物語が始まる。




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