おしごと

梓すみれ

オシゴトはじめます

85点、60点、73点、55点

といったところかなあ…。

ハズレじゃないけどアタリもないかな。


24歳、女。彼氏いない歴6年記念日。

気づけば大学も卒業していた。

まわりの友達は就職して、急に結婚だなんだって騒ぎ始めて、彼氏を作って、休日にあって写真を撮ってはインスタに投稿して優越感に浸っている。


そういえば、最後に彼氏がいたのは高校生の頃。いわば青春ってやつをしっかりやっていたにも関わらず、現在は周りに合わせて合コンに参加し、目だけが肥えてこのザマだ。


「お仕事は何されてるんですか?」


とりあえず定番の質問を投げて、様子を伺う。どうやら今日の人達は、公務員らしい。

安定していて、職業としては悪くない。


恋愛がしたいんじゃない、安定と結婚が欲しい。そう思うようになったのは23を超えた頃から。早いような気もするが、子どもの頃たてたキャリアは16で結婚して20で双子を産む予定だった私としては全然遅い。


「ゆきちゃんは、休みの日とかなにしてるの?」

「えっ」


ぼーっとしていて、あまりにも話を聞かなすぎていたみたいだ。急に名前を呼ばれて、顔を上げると、周りはみんな数人で盛り上がり、私の横には73点が座っていた。


「私、料理作るのが好きでちょっと時間かから普段作れなものとか作りますよ〜」

「1人なのに?えらいね!」


その一言でこいつはないと決まった。

1人なのに?深い意図がなかったとして、ここにきてるんだから1人に決まってるだろ。

その後も、にこにこしながら話してきていたが、話半分。周りの様子を見て帰りたくてたまらなくなっていた。


「ごめん、遅くなった」


新キャラ登場か。と思いながら、目をやると、ジャージみたいなズボン、ゆるいロンT、メガネのパッとしない男が立っていた。


30点。ないわ。

そもそも服装が、ないわ。


帰りたい気持ちをより積もらせていると、30点は私の横に座って、ハイボールを頼んだ。


「おねえさん、俺の運命の人かも」


時が止まった。


「はい?」


「でた、太陽の口説き文句」

「なにそれ〜」

「あいつ、なんか役者?目指してるらしくてさ、可愛い女の子見るとあれ言うんだよな」

「へー!そうなんだあ。ゆき、よかったじゃん」


もう成立しそうな、2人が正面の席から野次を飛ばしてくる。役者?冗談じゃない、私は安定と結婚が…


「ゆきちゃん、帰りたいんでしょ?」


小さい声でそう私に言ってきた太陽という男は私を見つめ、私が瞬きを忘れた瞬間に手を取った。


「え?」

「ごめん、俺どーしてもゆきちゃんが好きだわ!許してみんな!」


へらへらしながら太陽は私の手を握ったまま、私を連れ出した。

私は頭が追いつかず、されるがままに外に出た。


「あ、あの」

「じゃあ、お疲れ」


「へ?」


思いのほか高い音が出た。

さっきまでとは別人のような男が目の前に出現したようだ。


「なんで気づいたの」

「なんでって…」

「私、顔には出てなかったと思うんだけど」

「芝居やってると、なんとなくわかんだよね」

「なんか、別人みたい」

「どれも本物だよ。」

「帰りたかったから、感謝はしてる」

「じゃあ、お礼に俺の舞台見にきてよ」

「舞台?」

「来週、下北沢で舞台やんだ。」

「…わかった。」

「これ俺のLINEなんかあったら送って」

「わかった」


そう言って、太陽は私をタクシーに乗せて帰った。

安定と結婚。それが私の合言葉だった。


だったはずなのに。



_______オシゴトノジカンダ。



まさか、まさか私が小劇場の舞台にはまっていくなんて




太陽のせいで。



ああ、また今日も推し事の時間だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おしごと 梓すみれ @azusa-sumire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ