帰宅編

第14話 帰宅

 竜也は着替えの入ったボストンバックを片手に自分が住むアパートへと戻る。途中までタクシーを使い、アパート周辺は車は入れるが……Uターンするにはコツとテクニックが必要になる為、アパートから離れた道沿いまでにして貰った。竜也はアパートまで来て、自分の住んでいる古い建物を眺める。


 彼が高卒後に就職した大手有名企業仕事をしていた時期は、月に5万以上払う最新設備の整ったアパートだったが……その後、転職を繰り返し、現在何とか生活出来る住まいが……今の古いアパートである。


 築30年以上が経過していて…建物も入居する時から妙な湿った匂いがしていた。


 竜也は2階にある自分の部屋へと向かい、部屋の鍵を開けて室内に入る。自分では実感ないが……1か月振りに部屋に帰宅したのだった。


 約1か月近くの間……部屋を開けていたと言う事もあって、色々とする事があった。


 部屋の掃除よりも、まず先に彼は食事を済ませようと外出をする。歩いて直ぐ近くにチェーンのファミレスがあるが1か月間働いて居なかった彼にはチェーン店の値段は微妙に高く感じて、結局コンビニでカップ麺だけを買って帰って来た。


 とりあえず腹ごしらえをして竜也は部屋の掃除をする。


 簡単に掃除を終わらせると……竜也は以前から気になっていた担当医の知り合いに電話を掛けようとメモ書きされた場所にスマホから電話をする。


 プルル…


 「ハイ、柳沢研究所です」


 「あ……すみません。自分は村石竜也と言います」


 「おお……村石君かね、以前から君に会いたいと思っていたのだよ〜」


 「そ……そうでしたか」


 「明日にでも会えるかな?」


 「ハイ」


 そう答えると竜也は柳沢研究所の住所をメモって相手との電話を終えた。ある程度の作業が終えて一息着く頃……


 ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴り出し玄関を開けると


 「ヤッホー!」


 嬉しそうな声と同時に小柄な少女が竜也に飛び付いて来た。


 黄色の帽子に赤いランドセルを背負って現れた少女を見て竜也は驚いた声で言う。


 「雫……まさか学校終わって、直接アパートに来たの?」


 「そうよ、今日から竜也は退院してアパートに帰るって聞いたから学校が終わって、そのままアパートに来たのよ、退院祝いのチューしてなかったから今しましょうね」


 そう言って雫は会うなり、いきなり唇を交わして来た。


 挨拶の口付けが終わると雫は竜也を見て言う。


 「ねえ……退院祝いに、私が食事を作ってあげる」


 「え……いいよ、別に気を遣わなくて」


 「大丈夫、私こう見えても腕には自信があるから……家に帰って材料を取って来るね」


 そう言って雫は「あとでね」と、手を振ってアパートを出て行く。


 「あ……チョット!」


 そう言って、竜也は部屋から出て雫を追い掛けようとしたが…少し早く雫はアパートを飛び出して家に向かって走って行った。


 少し呆れ返った竜也は部屋に戻り、テーブルに向かって腰を下ろす。


 竜也が腰を下ろして、しばらくすると……


 ピンポーン


 再び玄関のチャイムが鳴り出す。


 「はい……」


 玄関のドアを開けると、セーラー服姿の美穂が立っていた。


 「こんにちは竜也さん、退院おめでとうございます」


 そう言って美穂は深く礼をする。


 「あ……ありがとう。でも礼しなくても良いけどね……」


 「いいえ、私は竜也さんのおかげで退院出来た様なものです。私は貴方には尽くせない程の恩を感じています」


 「そ……そうなの?」


 「ハイ、それで私……今日は貴方の家に泊まらせて頂きたいと思いますが……構いませんか?」


 「え……泊まるの⁉︎」


 「何か、迷惑でしょうか?」


 美穂が首を傾げて言う。


 「普通……女の子が友達の家に泊まるとか言うなら分かるけど、男性の家に泊まるって……もし、何かあったら一体どうするの?」


 「先ほども申した通り、私は貴方に尽くせない程の恩があります。私にとって村石竜也と言う人物は、将来の旦那様そのものです。貴方が望むのであれば……私は微力ながら尽くす覚悟はあります」


 美穂には何を言っても無理か……と思った竜也は、少女を何時までも玄関前に立たせる訳にはいかないと思って


 「とりあえず部屋に入って、チョット汚ないけど……」


 「お邪魔します」


 そう言って美穂は荷物と買い物袋を持って部屋に入る。


 美穂は奥の部屋に荷物を置き、買い物袋を持って台所に行く。


 「竜也さん!」


 美穂は、台所に行くといきなり竜也を呼び寄せる。


 「どうしたの?」


 美穂は竜也の集めたゴミ袋を見て言う。


 「貴方は……何時もカップ麺とコンビニの弁当ばかりですか?」


 「そう……だけど……」


 「いけません健康に悪いです」


 「そんな事言ったって、自分は料理出来ないし……」


 「それでしたら、私が毎日貴方の食事を作りに来ます」


 「別に……そこまでしなくても……」


 その直後


 ピンポーン……


 また玄関のチャイムが鳴り響く。

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