13 The Past -Jing-
もうずっと、ガキの頃から思っていた。
爛漫なのはいい。
確かにそれは、生まれ育った環境の特異さの
人間として完全に壊れてしまわない為に、たった一握りでも、胸中に残しておかなければならないもの。俺たちのように中国に
そう。
とは言え、なのだ。
自分の中にある、軸のようなもの。信念とか信条なんて呼ばれる、アイデンティティの
大多数の人間は、それを捻じ曲げられ、歪められる事を嫌悪しながらも、複雑に絡み合った世の中の
でも
微塵も許容できない。
この歌舞伎町の、大小様々な
だから、危うい。
今日もまさに、それだ。
歌舞伎町の外れ。
細い路地を入った、顔見知りの
本来ならば。
その
「おい
男たちの中のひとりが、
下っ端によくある虚勢だ。
俺がこの歌舞伎町の
本当のところ、初めから本気で俺と揉める気なんて、こいつにはこれっぽっちも無いのだ。虚栄心と承認欲求から来る、ただのポーズ。その浅はかさと卑しさに、少し腹が立つ。が、そんな輩をいちいち相手にしていては、きりがない。
俺はその言葉を無視して男たちを押し退けると、この場から連れ出そうと
「
鼻息を荒くして、
「だとしても、俺らが口出しすることじゃないのは判ってるだろ? そいつの言う通り、
溜め息混じりの俺のその言葉に、
「
また始まった。
無茶苦茶だ、こいつは。
確かに俺は、旨い
この街のこの社会で生まれ、十八年間暮らし続けても、
なんとか軌道修正をしなきゃならない。そう思った時だ。
自分の我を曲げられないヤツ。
俺の周りには、そんな輩が
今、
彼女を責め立てたい気持ちはあるが、もう遅い。
俺が制する猶予もなく、
男は鈍く奇妙な呻き声をあげ、地に顔を突っ伏したまま、ぴくぴくと痙攣しだす。
すかさず、
爪先が、もうひとりの男の頬を貫く。
男の顎は歪にひしゃげ、そのまま、崩れ落ちるように倒れた。
足元に横たわった男ふたりを跨ぎ越え、
「
「お前、こんなことして
「黙ってなくて、どうすんだ?」
額と鼻先が触れんばかりの距離まで顔を近づけて、
「
震えながらも、男も歪な笑みを返す。それを受けて
「上等だ。やってみろ」
が、振りきられる前に、その腕が引き止められた。
「何でも暴力で片付けようとすんなって、いつも言ってんでしょ、馬鹿!」
言いながら
「
急に名指しされた
「あんたも手伝って!」
突然の
その呆けたままの
「そうやってすぐに暴力に訴えるから、色々歪んじゃうんだ」
頬を膨らませた
「ヒトのこと、ひっぱたいたり蹴り飛ばしたりしながら言われても、説得力ないっつーの」
ふて腐れた感じでそう返す
「あたしのは暴力じゃなくて愛の鞭」
言って
これを向けられると、
すべてを帳消しにしてしまう、無垢な笑み。
「
この街のライバルでもある
「詰めるって、こっちから仕掛けたんだぞ?」
言い返すと、馬鹿、という罵りと一緒に、後頭部を平手で叩かれた。
「
そう言って
「お前は一体、どっちの味方なんだよ」
皮肉染みた口調で言うと、
「どっちもの味方。あたしはこの街に住む中国人全員に、幸せになって欲しいの」
それだ。
まさにそのまなざしだ。
それこそが
でも俺は、
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