魔法騎士を推し活するためにやるべきこと

野林緑里

第1話

 ペルセレムは先ほどからため息ばかりついていた。


 あまりにも落胆するものだから親友のアンジュディアは読んでいた本を閉じると彼女を見る。



 彼女の手には先ほど先生から渡されたテストの答案用紙がにぎられている。


 相当成績が悪かったのかと答案用紙を覗くアンジュディアは百点のいう文字をみた瞬間に思わず答案用紙を奪い取った。


 それにも気づかないようすでため息を漏らすペルセレム。


 どうやら、ため息の理由はそれではないらしい。


「ペルセ。あんた、どうしたのよ。ため息なんてついて……。百点とれているのになぜ落ち込んでいるのよ」


「そんなの。どーでもいい」


「はあ?」


 ペルセレムはそういいながら、頭を机につけた。


「百点なんてどーでもいいの。たくさん勉強したし、勉強したところまるまるでたもん」


 なんかすごく腹立つなあとアンジュディアはムッとするが、それにも気づいていない。


「はあ。………さま~」


 ペルセレムの口から何やら名前らしき言葉が聞こえてくる。


 いったい、だれの名前をいっているのだろうかとアンジュディアは耳を近づけてみる。


「フェルドさま~」


 次ははっきりと聞こえたのだが、聞き覚えのない名前だ。


「ペルセ……。フェルドってだれ?」


 思わず尋ねると、ペルセレムはパッも顔をあげてアンジュディアをみる。さっきまで異様に落胆していたのが嘘のように目を輝かせる彼女にペルセレムはぎょっとする。


「あのね! あのね! 聞いてれる?」


「えっ。ええ」


「あのね。あのね。フェルド=ランバラス=ニートさまよ! アメシスト王国の魔法騎士なの!」


 彼女は興奮ぎみにいう。


 そういえば、最近ペルセレムは家族旅行で隣国のアメシスト王国に出掛けていったのを思い出した。


「じつはね。彼、すごいの! すごいの!」


 なにがすごいのかさっぱりわからない。


 アンジュディアはきょとんとする。


「私と同じ15歳ぐらいなんだけど、すごーい魔法使いで、アメシスト王国魔法騎士団のなかでも最高峰とされるクライシスハンターニーに所属しているんだよ」


 クライシスハンターという言葉は聞いたことがある。アメシスト王国魔法騎士団のなかでも選ばれた一握りのものが所属する超エリート集団で昔世界を支配しようとした魔王ギルティの強力な魔力の破片を消滅させることを仕事としている者たちのことだ。


「わたしね。ちょっと事件に巻き込まれたの!そしたら、その人が助けてくれて、も

 う一気に推しになっちゃったの」


「だから?」


「だから、私決めたの! いつか、アメシスト王国にいって、フェルドさまの推し活しようと思っているの!」


 そういいなから、彼女は目をハートにしてアメシスト王国のある方角を祈るように両手を組ながらみていた。


「あんたねえ。推し活って……」


「正確にはアメシスト王国へいって魔法騎士団になってフェルドさまと同じクライシスハンターに所属するの。そして……」


 そこまでいった彼女は完全に妄想の世界へと入り込んでいった。


 さっきからニヤけていることから良からぬ妄想をしているらしい。


 ここは現実を伝えるべきなのだろうかとアンジュディアは迷ったのだが、親友のためにも告げたほうがよいのだと判断して一言告げる。


「ペルセ。あのねえ。アメシスト王国の魔法騎士団に入るには、まずシャルマン王国の国立魔法学校にいかなきゃいけないのよ」


 その言葉にペルセレムはいっきに現実に引き戻される。


「あんたさあ。筆記試験はいいけどさあ。魔法の実技試験っていつも最下位だったわよね。あの学校は実技重視だから、あんたが受かる可能性なくない?」


 ペルセレムは血の気が引いた。


「ひえええええ! うっそおおお!」


 思わず顔を上に向けて涙目で叫んだ。


 現実がみえてきたかなあとアンジュディアが思ったのもつかの間。


 ガクンと項垂れかと思えたペルセレムは突然不気味な笑いを浮かべた。


 そして、一枚のチラシをだす。


「じゃじゃーん」


 それは冒険者募集中の広告だった。


「はい? 冒険者?」


「そっ、ちょっと聞いたんだけど、冒険者にギルドに魔法使いとしてある程度のレベルあげたら、アメシスト王国の魔法騎士団の試験受けられるらしいのよ!」


「はい? そんなものがあるの?」


 アンジュディアは広告を見せて貰う。


「そう! 冒険者やってる知り合いに聞いたの! だから、決めたわ。卒業したら、冒険者になってバンバンレベルあげていつかフェルドさまのいるアメシストへいくのよ!!」


 ペルセレムはクラスメートの視線など気にもとめずに立ち上がるなり、エイエイオーと高々と宣言した。


「いやいや、無理でしょ」


 どれぐらいのレベルになればアメシストへいけるのかはわからないが、彼女の魔法の才能のなさを知っているアンジュディアからしたらいつになるやらと心配で仕方がなかった。


 だけど、やる気になっている親友をとめるすべとない。


 そしてペルセレムは学校を卒業後愛しのフェルドさまの推し活するために冒険者になるわけだが、魔法の才能がいまいちな彼女と一緒にパーティーを組もうとするものはいるはずもなく苦労することとなる。


 やがて彼女の運命を左右することになる一匹のドラゴンを連れた鍵師たちとめぐりあうのであった。





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