だってアタシのヒーロー。

清泪(せいな)

その帽子どこで売ってますか?

 ジャスティスキャップは今や人気No.1のヒーローだ。


 遺伝子の突然変異で一部の人類が超常的な力を手にして早数年。

 テレパシーだ、サイコキネシスだ、かつて超能力だと眉唾に扱われた物から、身体から炎を出したり冷気を生み出したり、果ては雷まで落とせたりと、アメリカンコミックが預言書扱いされるほど世の中は異能力者に溢れた。

 そんな異能力に目覚めた人々は己の欲望のために力をふるい世の中は混乱に陥った。

 細やかな暴力や細やかな犯罪から、強盗、殺人、侵略戦争にまで瞬く間に異能力は使われて、抑制、統率、秩序と反対勢力が現れるのもあっという間の話だった。

 正義や平和、また別の角度から欲望のために力をふるう人々が現れて欲望と欲望、力と力がぶつかりあった。

 力に目覚めなかった者、遺伝子が突然変異しなかった者が口をぽかんと開けて驚いてるいる間に異能と異能がぶつかって世界中を混乱の渦に巻き込んでいた。


 そんな中で突如現れたのがジャスティスキャップである。

 初めは地方紙の記事での強盗逮捕だった。

 顔はハッキリと映っていないけどそのヒーロー名にもなったJUSTICEと書かれたキャップはその時から被っていた。

 大きめのパーカーにダボダボのカーゴパンツ。

 履き崩し過ぎたスニーカーはこの頃から履き替えたら良いのにと言われていたとか。


 ジャスティスキャップの異能力は炎を出すとか目からビームが出るとか空を自由に飛べるとか、そんな派手な物じゃなくて身体能力が異常に優れているという地味な物だ。

 何々のトップアスリートの記録を軽々越える、と言うと能力無しの者にとっては立派な異能に思えるが、足の速さ一つとってもそれに特化した異能の持ち主と比べると大したことは無い。

 そんな地味な能力でジャスティスキャップは次々と事件を解決していった。

 多分自己流の、空手とかボクシングとか何かの型にハマらない不格好な徒手空拳で、時には炎を掻い潜り、時には氷を叩き割り、時には弾丸を避けて、時には巨大化する犯罪者をよじ登り、異能者を制圧してきた。

 あくまで一般人としてその範疇を超えないようにするためか最終的な逮捕などは警察に任せる姿勢は、ジャスティスキャップのふるう暴力はグレーとして黙認された。


 地方紙の記事から始まったジャスティスキャップの偉業は今や連日トップニュースとしてテレビやSNS、ネットなどを賑やかしている。

 称賛する者、嫉妬する者、渇望する者、信託する者、溺愛する者、挑発する者。

 様々な目が、声が、ジャスティスキャップに向けられ、投げられる。

 そのすべてにあの不格好な徒手空拳でジャスティスキャップは答えてくれた。



 そうだ、答えてくれた。

 いつも、いつでも。

 私が大好きなジャスティスキャップは様々な事件を、様々な困難を、心身ともに満身創痍になりながら乗り越えてくれた。


 それは希望だ。

 私にとっても、異能力を持たないものにとっても、異能力を持ったものにとっても。

 人々は簡単に混乱に飲み込まれ絶望に伏したりはしない、そういうまばゆい希望だ。

 ああ、ジャスティスキャップが頑張るなら私も頑張ろうっていう、明日への活力だ。


 そう、だから、私は私の推しの為に私に出来ることを頑張ろうと決めた。

 希望を絶やさないため、明日への活力を失わないため、ジャスティスキャップの頑張りのために私も頑張る。

 あの時、地方紙の記事を読んだときの興奮を、歓喜をずっと損なわない為に、私も頑張り続けようと決めた。


 そう、だから、私は今日もジャスティスキャップの為に犯罪者を用意する。

 ジャスティスキャップの人気が落ち目になってしまう恐れがあるから、前の事件より派手にしなければならないのがなかなか難しい。

 でも無理難題を用意してもダメだ、ジャスティスキャップが解決できるレベルじゃないと。

 満身創痍になろうと立ち向かうジャスティスキャップでも即死レベルの脅威には対峙できないだろうし。


 またネットでリサーチを済ませて犯罪予備軍をリクルートしてこよう。

 希望が眩しければ眩しいほど、影に潜んで羨みたい奴等は出てくるものだ。

 そいつらを引っ張り出して、ジャスティスキャップの偉業をより輝かしいものにしなければ。


 さぁ、推し活、推し活!

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だってアタシのヒーロー。 清泪(せいな) @seina35

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