誰にでも優しいゆるふわ後輩(Hカップ)がパンツを漁っていた件について。

kattern

第1話 2022年3月5日午後8時7分 石清水しのぎ 逮捕

 拙者の名前は石清水しのぎ。

 アイドルVTuberグループ『DStars』三期生。

 日本各地を放浪しながら配信するガチ百合女侍(という設定)。

 チャームポイントはHカップおっぺえ。


 そんな拙者には大好きな推しがいる。


 同じ事務所の先輩。

 VTuber警察の女刑事(という設定)。

 ベリーショートの黒髪に華奢な身体。タフでワイルドな大人の魅力がたまらない。

 通常配信のシンプルなスーツ姿もかっこよし。

 けどけど、3Dライブ衣装が――誰よりもアイドル。


 羽曳野あひる先輩に拙者はガチ恋していた!


 もう、一生推せる!

 あひる先輩しか勝たん!


「いや、リアルで逮捕するのはお前がはじめてなんだわ」


「ごめんなさい。出来心だったんです……」


 そんな先輩に拙者は手首をキメられていた。

 先輩のダンスレッスンを見計らいロッカーを推し活(泥棒)した拙者は、急に入ってきた彼女に取り押さえられたのだ。


 倉庫兼用のロッカー室。

 段ボールや撮影機材が所狭しとひしめく中で推しに手首をキメられる。

 女刑事お見事。同僚の下着を漁る女泥棒を現行犯逮捕――って感じ。


 いや、言い訳させてください。


「しのぎ? あひるのロッカー覗いて何しようとしてたの?」


「ダンスレッスンを頑張ってるあひる先輩に、差し入れをと思いまして……」


「直接レッスンルームに来ればいいだろ?」


 はい。そのとおりですね。

 ぐうの音もでねえ。


 先輩の青みがかった前髪が揺れて、胡桃色の瞳がこちらを睨む。

 怒っているというより心配する感じ。


 そんな推しの表情もまた――イイ!


 悦っている私をよそに、あひる先輩が捻り上げた私の右手をみつめる。

 握り込んだ掌の中からひょろりと出る『それ』を彼女はけっして見逃さない。

 流石はVTuber女刑事。


「手に握ってるもの見せてみ?」


「え、なに言ってるんですか? 拙者、急に耳が遠くなっちゃったかも?」


「いいから右手に握ってるブツを見せなさい!」


 微笑んだ拙者の前で、あひる先輩は人差し指と中指を伸ばして手を振りかぶった。そのままスナップを利かせて――「ぺしり!」と拙者の手首を叩く。


 先輩の愛が優しく、そして痛い。


 あと――ちょぴっと気持ちいい。(でへへ)


 ぽろりと『それ』は床に落ちた。


 水玉模様の二等辺三角形。

 ふんわりもこもこコットン生地。

 先輩のイメージカラーのライトイエロー。


 まだ使用前なのだろう――パリっとそれは乾いていた。


 あひる先輩が暗い瞳でそれを見つめた。


「……パンツなんですけど」


「え、パンツ? 違いますよ! 三角形のコットンタオルですよ!」


「あひるのパンツなんですけど! レッスン後に着替える奴なんですけど!」


 それは――あひる先輩のパンツだった。


 もう、言い逃れできない。

 そうです拙者が盗みました。


 無念。残念。切腹太郎。(持ちネタ)


 2022年3月5日午後8時7分!

 石清水しのぎ逮捕!

 罪状は『おぱんちゅ泥棒』!


「違うんです、誤解なんですあひる先輩!」


「この状況で言い逃れできると思ってんの?」


「うみ(しのぎの同期)にやれって言われて! 拙者やりたくなかったのに『おう、しのぎ! あひる先輩のおぱんちゅ盗って来いよ! ダッシュな!』って!」


「いや、裏は取れてるンだわ。ばにら(しのぎの同期)からタレコミ貰ってンだわ」


「ばにらぁーーーっ!」


「あいつから『しのぎがあひる先輩と同じパンツ穿いてたバニ。もしかして、下着がなくなったりしなかったバニ?』って言われたけど、ガチだったか……」


「三期生の絆はどこにいったのーーーっ!」


 言い訳失敗!

 あひる先輩の怒りが怒髪天!

 ほっぺたが痛くなるほど鋭い視線が拙者の顔をロックオンしてくる!


 どうするのしのぎ。


 このままじゃリアル警察のお世話だぞ。


「……ええい! こうなればもうヤケっぱちだ! 好きです、あひる先輩!」


「……し、しのぎ⁉」


 あひる先輩の手を振り払うとくるりと拙者は身を返す。

 彼女がひるんだ隙を見逃がさずに立場逆転。


 壁ドン!

 おっぱいもドンドン!

 拙者は先輩をロッカーに追い詰めた!


 拙者の胸の前でふるふると震える推し。

 怯えた表情もたまらない。

 しかし、今はそれも我慢だ。


 先輩への溢れる想いを胸に押し込むと拙者は、自慢のHカップダブルたわわを、あひる先輩のほっぺたにそっと近づけた――。


「ちょっ、やめろしのぎ! なにするんだよ!」


「先輩がいけないんですよ。そんなスケベな顔と身体で拙者を誘惑するから」


「どう考えてもスケベなのはお前だろ!」


「こうなったら死なば諸共です。先輩、タダで忘れろとはいいません。拙者のおっぱいで脳味噌トロトロにして、『おぱんちゅ泥棒』の記憶を溶かしてあげます」


「ほんとなに言ってんだ!」


 丹念に。

 包み込むように。

 優しく、やさしく。


 拙者は胸であひる先輩を包み込んだ。


 これは――もしかして拙者ってばあひる先輩のママでは?


 よく『ファンがアイドルを育てる』って言うもんな。アイドルVTuberだってそうだろう。なら、鳥類(先輩のメンバーシップ登録者の愛称)の拙者はあひる先輩のママ。間違いねえんだわ。拙者があひる先輩を責任持って育てなければ。(早口)


「ほ~ら、あひる先輩~、ママのおっぱいですよ~」


「もがーっ! もがむぐ! もごーっ!」


「しのぎの生ASMR(睡眠導入)聴いて気持ちよくなりましょうね~。ほ~ら、ぱふぱふ~、ぱふぱふ~。おっぱいにいっぱいあまえていいんだよ~」


 激しいおっぱい攻めに拙者の胸のさらしが外れる。

 襦袢の中で右と左に別れたぺいぺい。右ぺいぺいと左ぺいぺいをそれぞれ手に持つと、拙者は先輩の顔を――胸の谷間に挟み込んだ。


 拙者の胸で先輩が眠りに落ちるのにそう時間はかからなかった。

 かくして拙者は『おぱんちゅ泥棒』の罪を免れた――。



 やはりおっぺえ!

 おっぺえは全てを解決する!



「配信で身につけた乳揺れと睡眠導入ASMRが、まさかこうして自分を助ける日が来ようとは。おどろきでござる」


 額に滲む汗を手の甲で拭う。

 私は胸からあひる先輩を離すとコンクリートの床に寝かせた。


 そして、気絶した彼女から――レア報酬『生脱ぎおぱんちゅ』を剥ぎ取った!

 上手にできました!(ジャン!)


「かーっ! これだからVTuberはやめられないんだわ!」


◇ ◇ ◇ ◇


「という感じで、今週の『スタぐら(公式のYoutubeショートアニメ)』は行こうかと思ってるんですけど――どうですかね?」


 DStarsプロダクション。

 映像技術室(ただのオフィス)。


 アニメーションの委託先が提出してきた3Dアニメの再生が終了する。

 運営スタッフの裏方Aちゃんがモニタから振り返ると、どこかぎこちない笑顔を『石清水しのぎ』――の中の人こと私に向けた。


 どう答えていいか分からず黙り込む。

 そんな私の代わりに、同席した先輩が口を開いた。


「いや、アカンやろこんなん! 私らアイドルじゃろがい!」


「アカンですか?」


「むしろ、どこにイケる要素があると思ったんだよ! しのぎが可哀想でしょ!」


 先輩こそ『羽曳野あひる』の中の人。


 後輩のために運営相手にも毅然と文句を言ってくれる姉御肌。

 配信だけじゃない。キャラ造ってる訳じゃない。リアルでも、かっこよくて頼りになって、けど時々かわいい先輩が――やっぱり私は大好きだ。


 やっぱり、私の推ししか勝たん。


 一生先輩についてくまである!


「いいな、私も先輩のおぱんちゅ欲しいな……」


「しのぎさん⁉」


【了】


◇ ◇ ◇ ◇


ご視聴ありがとうございました。もしよければ、チャンネル登録・メンバーシップ・動画の高評価をいただけると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰にでも優しいゆるふわ後輩(Hカップ)がパンツを漁っていた件について。 kattern @kattern

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ