推されるモノとして
最早無白
推されるモノとして
アタシ、
「おーい、明日夏ー?」
「ん? どったん?」
「そりゃコッチのセリフっての。ずっとボーってしててさぁ」
「ま? ごめごめっ。で、何の話してたっけ?」
「明日夏が話振ったんじゃん。あのオタクのことだよ、あんたがずーっと睨んでたアイツ」
あ~! そうだったそうだった。なんか気になるんだよなぁ。なんでアイツ、いつも一人でいるんだろ、って。しかもスマホ観てなんかニヤけてるし。せっかく同クラなんだから、仲良くしたいよな~って感じ。
「アタシやっぱ行ってきた方がいいかなぁ」
「なんで? あんなの明日夏と絶対合わないっしょ。ウチとも合いそうにないし」
「わかる。なんか見るからに『私オタクです!』って感じするもんね。ウチらと絡んでも逆にかわいそーじゃない?」
ん〜……やっぱ『ギャル』っていうのが威圧感出しちゃってるか〜。人目のつく所で話しかけること自体、まあまあ危険なんだよな〜これが。
「おけ。じゃあ放課後にアタシ一人でちょい話してみるわ!」
「「おー、がんばー」」
午後の授業は全く頭に入ってこなかった。いつもこの時間は寝てるから授業内容はもともと頭に入ってないんだけど、今日はずっとあの子とどう話すかを考えていた。起きてるだけで先生に褒められるとは思わなかったけど。
「起立、礼」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
解散、勝負開始を告げる合図だ。ここでアタシがとった策はSNS。
アタシにはネットでそれなりに名の知れた存在、『なつピ』というアカウントがある。明日夏の夏でなつピね。フォロワーの層は広く浅くといった感じで、バリバリのギャルもいれば、あの子のようないい意味でオタクっぽいフォロワーもいる。
そして一番のファン……というかその辺を通り越して、アタシのことを『推し』として崇拝? してくれる『nalha』というフォロワーがいる。名前の由来は知らない。
『クラスメイトのちょい大人しめの女の子と仲良くしたいんだけど、どうやって話を切り出せばいい感じかな?』……送信。とりあえず多くの意見が欲しい!
──ってリプ早! やっぱり一番はこの子だったか。なになに……『オタクにも優しいなつピなら、普通に話しかければ大丈夫だと思います!』か。せっかくオブラートに包んだのに、派手に破ったね〜……。とはいえ参考になった! 『ありがと!』……と。そんじゃま、今は人も少ないし……。
「ねねっ! ちょっと話そ!」
「ひゃあああああ! な、なんなんですかいきなり!」
あちゃ~……やっぱりダメだったか~。だけどきっかけとしてアタシのことが印象に残れば万々歳! 今日のところは諦めてまた次の機会に……ってこれ!
「なつピじゃん! えと……
「えっ、あぁ……一応……」
「そっか! それアタシ、アタシだよ!」
「そんな……ま、周里さんが、あのなつピなわけないじゃないですかっ!」
いや、アタシなんだけどなぁ……そだ! アカウント見せればいいんだ。よ~し、これで信じてくれるはず!
「じゃんっ。これでどうよ?」
アタシはポケットからスマホを取り出してなつピのアカウントの画面を見せる。
「えっ……どうして……」
あぁ、見るからに混乱してる……アタシが中務ちゃんと仲良くしたいからって、やり方強引すぎたかなぁ~……。
「どうして! なつピは私みたいなオタクにも優しくしてくれるギャルのはずなのに! か、解釈違いですぅ~!」
「あっ、ちょ! 待って!」
――行っちゃった。マジでどうすりゃ仲良くなれるんだろ?
「はぁ……はぁ……久しぶりに全力で走ったから、息が……」
周里さんのあの画面、確かに本物のなつピのだよなぁ。もし本当に周里さんがなつピだったとしたら、あんなガチ恋距離で……ほわぁぁぁぁ……!
「って、なつピからリプきてる! どのつぶやきからだろ……」
「あっ、いた! もう、急に逃げないでよ~!」
「ひゃあぁぁぁぁ! あの、そ、そのぉ……周里さんって……」
「そだよ。中務ちゃんの好きななつピはアタシ。学校じゃ派手にメイクできないから分かりづらいかもだけど」
SNSでアップしてる写真は休みの時に撮ったヤツが多いから、今みたいなほぼすっぴんだとなつピのイメージつかないよね~……。
「なつピ……周里さんは私を……ど、どうしたいんですか……? 推しのためなら購買くらいならダッシュで行きますけど……」
「あ~! そういうのだいじょぶだから! アタシは中務ちゃんと仲良くしたいだけなの!」
「仲良く……? 私なんかと?」
う~ん……私『なんか』って言われると、壁を作られた気がしてちょっと萎えるなぁ。
「なんか、じゃないよ。アタシと中務ちゃんはクラスメイトなわけじゃん? せっかく一緒の時間を過ごすんだから、仲良くしたいな~って思ったわけよ」
「で、でも……私にそんな需要とかないですし、というより推しとお近づきになるなんて恐れ多いですぅ!」
「そっか……じゃあアタシ以外の人はどう? こういう言い方は良くないと思うけど、その……見た感じ、クラスにあんまり馴染めてないっていうか……」
「が、学校は勉強をするための所で、だから友達とか、そういうのは……。なつピを推していれば! 嫌なことも全部忘れられるからっ!」
初めて視た、中務ちゃんのあんなに開いた眼。
初めて聴いた、中務ちゃんのこんなに透き通った声。
――めっっっっちゃいいじゃん!
「お、おう……にしても、それ本人の前で言っちゃう~? びっくり~」
「……あっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 私としたことが、推しに乱暴な言葉遣いを……」
「そっちのがいいよ! 少なくともなつピ的にもそっちのが好き!」
「なつピが、こっちのが、すき……?」
「そ! なんというか、素直な気持ちでいるのが一番、みたいな? アタシは結構周りの目とか気にしちゃうからさ、なかなか素直になれないんだけどね。名前の通りだな~……あはははっ!」
「もしかして……私のようなオタクにも優しいのって、それが理由ですか?」
確かにそうかもなぁ。誰かに優しくすることで、自分に余裕があるように見せたいだけなのかな。だけど優しくしたい、一緒にいたいという気持ちは本物だ。
「それもちょっとあるかも。まあその辺は今は置いといて、アタシは中務……えっと……ん~と……」
「……
「それ! 春奈ちゃん! ん? はるな……なるは!?」
「……です。さっきもリプしました……。あ、リプ返、ありがとうございます……」
まさかnalhaちゃんがこんな身近な所にいたなんてねぇ~……。
「いや~、こんな偶然もあるもんなんだねぇ~! やっぱアタシ達何かの縁があると思わない?」
「ま、まあそうですね……まさか推しが同じクラスにいるなんて……。なつピとお近づきになれるなんてチャンス、他の人が聞いたら卒倒しそうですし、現に私も頭がパンクしそうで……私もどうすればいいか、どうしたいか分からないんですぅ~!」
春奈ちゃんは完全に我を忘れてあたふたしている。やっぱり今すぐに仲良くなるってのは無理そうだな。推されている存在として、ここは一つ春奈ちゃんをリードしてやらないと!
「じゃあ……とりあえず写真でも撮る?」
「写真……ですか!? わ、わわわ、私なんかがなつピと同じ画角にぃ~!?」
「まあまあ。今はなつピじゃなくて明日夏だし? ちょい時間かかってもいいならメイクしてなつピモードにするけど」
「だ、大丈夫です! 周里さんのままでも、なつピはなつピだから……!」
「あれ~? さっきはアタシのことなつピなわけないって言ってたのに〜」
「そ、それは……ちゃんと証拠も見せてもらいましたし、推しとツーショットのチャンスを逃す手はありませんから……」
やっぱ春奈ちゃんはアタシよりもなつピメインか〜……。まあしょうがない、アタシの……『周里明日夏』のことも推してもらえるよう、これから頑張んなきゃだ!
「じゃあ撮るよ〜! はい、チーズ!」
推されるモノとして 最早無白 @MohayaMushiro
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