瘋癲のバッドヒーローズ~魔界拳王子と悪童勇者たち

アニッキーブラッザー

第1話 プロローグ1 魔界の王子は将来は勇者になりたい

 僕は魔王ではなく勇者になって世界を守りたいんだ。



――世界を楽しいと思えないんじゃ、世界を心底守りたいと思えねぇだろ? お前はもっと肩の力を抜いて機嫌よく笑って、世界と人生を楽しめ!



 夢を抱いていた僕に、僕の父を倒した勇者である先生はそう言った。

 だけど、楽しいとか楽しくないとか、そこは重要ではないのではないかと僕は思い、先生の言葉に納得できていなかった。

 


――言っておくが、勇者について俺から学ぶことなんて何もねえよ? 何故なら俺は自分を勇者だなんて思ってねぇし、名乗ったこともねえし、むしろ一部の連中は俺を勇者失格とか言いやがる。譲れねぇもんがあって戦った敵が、たまたま魔王だったお前の親父だっただけだ



 そしてあの人は、僕が教えを請いたいと言っても嫌そうな顔をして逃げ回った。挙句の果てに自分は勇者じゃないなどと謙遜した。

 

 あなたは勇者じゃないか。


 魔王である僕の父を打ち負かした。



――つうか、お前さんは俺を恨んでねーのかよ!? ほら、お前の親父を……あ~、その……



 誰がそんな私情の話をするものか。僕を見くびらないで貰いたい。

 戦争を終わらせ、憎しみの連鎖を断ち切ってこそ共存の道がある。


 そして、敗れた父も散り際に貴方に対する恨みは何一つ言わず、貴方を認めて称えた。魔界史上最強と呼ばれた父がだ。

 

 あなたは長年続いた魔界と地上世界、人間と魔族の戦を終わらせ、多くの命を救った。

 

 あなたは英雄だ。


 だからこそ、恨むどころではなく、むしろ僕はあなたのような勇者になりたいと思うようになったんだ。



――お前さんは俺とは違う。それは、種族がどうのこうのじゃねえ。俺とお前さんとじゃ、過ごしてきた人生や世界が違うから、何を守りたいか、何のために戦うのかって、根っこが違うんだよ。だからこそ、お前さんが求める理想の勇者象は俺にはならねんじゃねぇのかい?


 

 そんなことはない。僕は正義のためにこの身を捧げたい。

 この世界のため。

 魔族の未来のため。

 そして、今後は友好を結んでいる人類のためにも戦う勇者になりたい。



――正義ねぇ……定義のねぇもんは振り回すなよ。貫き通すのはいいことだが、押し付けすぎると迷惑になるし、息苦しいだろ?



 でも、そんな僕に先生はいつも困った顔をして笑った。

 先生は勇者なのに、正義という言葉は嫌いだった。



――お前さんには……慕ってくれるやつとか、許嫁とか、臣下とかいるかもしれねえ……でもな、一緒に居たり、一緒に遊んだりして楽しいって思える友達とかいないんじゃねえのか?


 

 友? そんなの不要じゃないか。大体、遊んでいる暇なんて僕にはない。

 戦争は終わった。しかし、それでも腐った奴らや、人々を傷つけ、悲しませている悪党はいっぱいいる。

 そんな奴らがいる限り平和な世界は訪れない。

 だからこそ、戦わなくちゃならない。

 腐った奴らや悪党は正義の力で鉄槌を下さねばならない。

 そいつらをとっちめる。

 遊んでいる暇があるなら、自分を高めなくちゃいけない。

 そうじゃないんですか? 先生!



――そうか……だとしたら……やっぱり俺はお前さんの理想の勇者じゃないさ。



 そんな僕の頭を先生はくしゃくしゃにして笑った。



――なんつうか、一緒にバカやれるやつらが……一緒に居て楽しい奴らが……時には自分の弱さや悩みをさらけ出せる奴らが……そういう奴らが俺の周りに居てくれて、だから俺の人生は楽しかった。俺の手の届く範囲の世界は大事だった。だからこそ、それを脅かされねえように戦ったにすぎねえ



 そして先生は、いつまで経っても先生の言葉を理解できない僕に対して、突き放すではなく「仕方ないな」と苦笑しながら……



――弟子ってのはよく分かんねーけど、まずはダチになろうぜ? 俺じゃお前に理想の勇者は教えられねえ。だけど、色々と人生の楽しみ方なら教えられる。だから、もうちっとお前さんも笑えよな!



 それが、僕のこれから数百年続く人生の中において……



――よーし、まずは友達百人作れ! あ? 人間限定? ちげーよ、種族なんて関係なくだよ。そうやって、まずは自分の世界と輪を広げてみろよ。まっ、一人目は俺でいいからよ♪ 



 一生忘れることのできない黄金の日々の始まりだった。






――あとがき――

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本作『戦うイケメン』というコンテストに登録しており、中編(2万~6万字)程度を予定しております。


短い間ですが、よろしくお願いします。

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