エンジェルさん

洞貝 渉

エンジェルさん

 やり方がわからなかったので適当にやった。

 それがよかったのか悪かったのか、正直、よくわからない。


『力が欲しいのか?』


 神々しいまでに輝くその人は、私の知識の中で形容するのであれば、おそらくは“天使”と呼ばれるもの……なんだと思う。たぶん。


『汝は力を欲するのか?』


 こっくりさんは有名だけど、キツネのお化けはちょっと怖かった。

 だから、名前の違うエンジェルさんを呼んでみた。

 同じようなものだろうと高を括っていたんだ。

 だから、用意したものはこっくりさんに必要な物。呼び出すときの言い方を、「こっくりさん」から「エンジェルさん」に変えただけで、でもまさか、鳥居を通って天使が来るとは思っていなかった。


『もし欲するのであれば』

「あ、ごめんなさい。違くて、そうゆうのじゃなくて」


 なぜかたまたま開いていた学校の屋上にて。

 どうゆう構造なのかわからないけれど、十円玉が宙に浮かんでいる。

 その十円玉を体の中心に据えて、半透明な姿のエンジェルさんは厳かに私を見下していた。半透明で、神々しく輝いていて、そしてなんかやたらとマッチョで。

 問題は全部、力(物理)でねじ伏せて解決しそうな、そんな圧力がある。というか、エンジェルさんって、こうゆうのだったの? じゃあ、こっくりさんは半透明のキツネが現れて『モフモフは欲しいか?』とか聞いてくるのかな。え、やだなにそれかわいいこっくりさんにすればよかtt


『汝は何故我を呼んだ?』

「あ、はい。すみませんただの好奇心です」

『ほう? おもしろいことを言う……』

「ごめんなさい二度としませんお帰りください」

『我を呼びつけておいて、なにも願わずに帰れと?』


 例えば、クラスの友人の好きな人とか、明日の天気とか、そんなたわいもない質問をする気でいたのだけれど、現れてまず言うことが『力が欲しいのか?』の筋肉隆々天使に質問できるわけもない。


『願いを言え。それまでは帰らん』

「そんな……」


 なにか、あるだろうか。こんなぶっとんだ存在に願えることなんて。


「えっと……世界平和、とか?」

『規模がでか過ぎる。対価は払えるのか?』


 対価とかなにそれ怖い。魂とかとられる系のやつなの?


「うーんと……じゃあ、モテたい、かな?」

『……』


 うわ、なにその憐れむようなまなざし。


『そうだな、それも一つの力には違いないな……』

「はあ……」

『まずは筋トレをしろ。身体を引き締め、健康を維持しろ。現状の汝の身体であれば、当分は自重トレーニングで十分だ。タンパク質をしっかりとってよく眠り、二、三日トレーニングしたら一日は休め』

「え、あ、はい」

『半年は続けろ。そして自らの肉体に自信がついたら次は可愛らしさを磨け。我を見ればわかるであろう? 見た目は何よりもものを言う』

「ええ……? えーっと、あー、はい」

『媚びへつらえというのとは違う。身からあふれ出る可愛らしさだ。可愛いは正義だ。筋肉も正義だ。わかるな?』

「……はい」

『この最強な二つの刃を手にすることができれば、汝の願いは成就されるであろう。……たぶん』


 あれ、天使さん、なんで最後ちょっと目を反らすのですか。

 

『努力を怠るでないぞ。たゆまぬ努力が汝の願いを叶えると、我は信じている。対価としてはこの依り代で十分だな。では、さらばじゃ!』


 半透明の天使は輝きを増し、あまりのまぶしさに目をつむる。

 鳥が力強く羽ばたくような音がした次の瞬間には、天使は消えていた。エンジェルさんに使った十円玉と共に。



 その後、天使の言う通り、努力に努力を重ねて、念願叶い、かっこかわいいアバターを手に入れてメタ空間でモテモテになったのは、また別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エンジェルさん 洞貝 渉 @horagai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ