第14話 悪いことは連鎖する

「あぁぁぁぁ……」


 ふらふらと自席に戻って、樹里は机に突っ伏した。プロジェクトの進捗について、上司と話し合いをしてきたところである。心がずんと重たい。


「樹里さん、大丈夫ですか。課長に何か言われました?」

「あぁ、いや。そういうわけじゃないんだけどね」


 大樹は心配そうに声を寄越すから、慌ててシャンとし、モニタに向き合った。よそ行きの顔が出来ているだろうか。内心では、酷く焦っている。理由は簡単だ。未だに店が決まらず、時間だけが無情に過ぎていくからだ。季節はもう秋、十一月になっていた。

 美味い店はいくらでもあった。だが、この企画にそぐわないのである。新しい店を訪ねても、味の良いところはもう取材がされ、SNSで話題になっていたりする。『隠れた名店の味』を商品にするこの企画。隠れてなければ意味がない。だから、店探しが難航しているのだった。ここで、舵を切るのも一案か。上司から意見を聞き、樹里はそう感じている。


「うぅん、よし」


 樹里は頬をピシャンと叩いた。今一度気合を入れて、目をカッと開く。プロジェクトのプラットフォームを立ち上げ、深呼吸。舵を切るなら今が最後だ。モニタだけを見つめ、タタタッとアンケートを作成する。質問は一つ。『パスタ店を探すのに限界を感じている』、答えはイエスかノー。それから、自由欄も設ける。全て無記名で、自由に正直な意見を書いて欲しいとお願いをした。


「樹里さん、これって」

「うん、分かってる。平野くん、これは掛けだよ。でも、舵を切るなら今が最後だから」


 勝負師の心持ちだった。当然、再度上司とも話し合うが、今のままでは何も進まない。皆の苛立ちが募り、チームの雰囲気が悪化するだけだ。決して、これまでの労力は無駄にはしない。発揮された能力を適切に仕分け、次に活かす計算は出来ている。自席にいる人の視線を感じるが、樹里は見返すことはしない。すぐに他の仕事に手を付け、気にしないようにした。もうこちらからアクションは起こさない。ただ、じっと待つのだ。

 随分と時間が経ったような気がした。多分、まだ二十分程度だ。ゴクリと唾を飲み込んでから、アンケートの画面を開く。ポツポツと出始めた意見は、おおよそ想像していたようなものだった。


『調査をしても、ネットでは既にバズっていたりする』

『正直言って、どのパスタが良いか分からない』


大概は、そんなところだ。纏め役である樹里の能力不足を書く人間もあった。この結果だ。当然だろう。甘んじて受け入れよう。ここでくじけてはいけない。反応が出揃うのを待って、上司に頭を下げなければ。

 あぁ、心がどんどんと沈んでいく。結婚もダメになり、仕事もこの惨状。悪いことばかりが続いている気がする。どうして、こういうことって連鎖するんだろう。樹里の心は、今日は持ち上がりそうにない。

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