第10話 やり方の違い

二章 やり方の違い

 正解に辿り着く方法は一つではない。その答えに行き着くまでに様々な方法が存在し、それを自分に見合った手法に落とし込み問題に着手する。だから数学は面白い。


 などといかにもな理由で数学を得意教科とする人間もいるが、その理屈は分かっても、理解することはできない。人類は自分で数学という概念を発明し、その概念に自ら苦しめられている。なんと愚かなことか…。


 ボーっと数学の答案用紙を眺めながら、今回は諦めるかと投げやりな気持ちになっていた。たかが小テストだし。そう言い聞かせながら制限時間の残り5分が過ぎるのを待った。


 たかが小テスト、されど小テスト。あれ? されどならまずくない?


そういえば二年になって少し経った頃、クラスでカンニングがあったとかなかったとかそんな話を聞いた気がする。カンニングもある意味ルール違反ではあるが、一つの方法ではあるのかもしれない。


 小テストが終了すると同時に、今日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 ホームルームも終え、これから部活に向かう者、遊びに繰り出す者などで、ガヤガヤと教室が騒がしくなる。そして俺は帰宅する者だ。


 帰るか。とスクールバックを肩にかけようと持ち上げた時、隣の桜木から声を掛けられた。


「少しいいかしら」

 

 話しかけるタイミングを伺い待ってたのか、スクールバックを机に置き、座ったままの桜木が言う。


 嫌な予感である。そういえば先月、「ちょっといいか」と旧友である古田に声を掛けられ生徒会の依頼を手伝う羽目になったのだ。まさか急に、「放課後デートしよ」などというタイプにはさらさら見えない。


「どうした?」


「少し頼みごとがあるの」


 やっぱりか。


「頼み事? また生徒会の依頼か?」


「いえ、今回は生徒会の依頼は関係ないの。ただ個人的にやってほしいことがあるの」


 桜木はストレートの髪を左耳に掛ける仕草をした。端正に整った顔、どこかアンニュイな雰囲気を漂わせた彼女は絵になる。


 先月以降、あいさつを交わす程度でしっかりと話すのは久しぶりだった。


 女子からの個人的なお誘い……。そう解釈すれば……。うん、悪くない。というか普通に嬉しい。


「まあ良いけど、俺は何をすればいいんだ?」


 下心は知られないように、さっぱりとした返事を心掛ける。こういう些細なことを気にしてしまうのは思春期だからなのか、単にそういう性格だからなのだろうか。


「ちょっと名前を記入して、ハンコを押すだけの簡単な作業よ」


 何それめっちゃ怪しい。俺やる気満々だったの恥ずかしいじゃん。美人局ってこうして騙してくるんだな。いい経験になった。いや、何をこの歳で経験しているんだ。


 淡々と言った桜木はそう言い切った後も、戸惑う俺とは対照的に平然な顔をしている。冗談ではないようだ。なおさら困る。


「怪しさ満点、青空レストランだな。なんか嫌だわ」


「青空レストラン? 何を言ってるのかわからないけれど、とりあえず生徒会室に来て」


「えぇー……」


 というかやっぱり生徒会なんじゃないか。まあどうせ暇だし別に構わないが……。


 答えは聞いてない。といわんばかりの圧に押され渋々俺は、スタスタと歩く桜木の後を追うように教室を出て、生徒会室に向かうことになった。

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