二刀流村

滝田タイシン

二刀流村

 二刀流村。それが俺の生まれ育った、ド田舎にある村の名前だ。


 宮本武蔵が修業期間に立ち寄ったことがあると言うのが名前の由来だが、吉川英治の小説に出て来る訳でもなく、なにか武蔵が特別なことをしたとかのエピソードも無い。偽者だった可能性もあるし、なんなら立ち寄ったのが本当かどうかも怪しい。武蔵が有名になった後で、そう言えば来ていたからと、今までの名前を変更して二刀流村と名付けたらしいのだ。


 そんな理由で名前が付けられるぐらい特徴の無い村で、本当に外の人間が興味を覚えそうな物など何もない。特産品も無ければ、観光資源も皆無。米農家が主だった産業だが、特にブランド米な訳でもない。


 人口二百人弱。若い人はどんどん出て行き三十代後半の俺でも若者扱い。このまま外から人の流入が無ければ消滅が確実な状況だ。


 そんな現状に危機感を覚えた村役場は、村おこしとして一つの企画を立ち上げた。それが「村人全員が二刀流!」と名付けられたイベントだ。


 村名にちなんだイベントで、村人全員が村一番の特技を二つ持つという内容だった。これで村おこしになるのかどうか甚だ疑問だったが、動き出した村人たちを止める力が俺には無い。


 かくして「村人全員が二刀流」イベントがスタートした。


 村人たちはそれぞれ自分の村一番を見つけることに躍起となった。ある者は村で一番足が速いだとか、一番頭が良いだとか。その一番が二つ認められれば、役場で公認の証明書が発行される。晴れて二刀流村の村民と認められるのだ。


 俺には一つ、村一番と自慢できるものがある。背が村で一番高いのだ。今までうどの大木だなんだと馬鹿にされてきたが、こんなことで役に立つとは。


 俺は勇んで村役場に向かったが、証明書を発行してもらえなかった。なぜなら、もう一つの村一番を見つけることが出来なかったからだ。


 俺は悩んだ。歌は俺以上に上手い奴が居たし、体重が重い奴も居る。笑顔が可愛い訳でも無く、想像力が豊かでも無い。面白い奴でも無ければ、喧嘩が強いとか力持ちでも無い。本当に一番になれるものが無かったのだ。


 日に日に証明書を発行して貰えないプレッシャーが強くなってきた。会う人会う人が、挨拶のように「なにか見つかったか?」と訊ねて来る。仕舞いに親が情けないと泣き出す程だ。


 イベントが決まって一か月が過ぎた日。俺は村長から役場に呼び出された。


「いつになったら二つ目が見つかるんだ? もう証明書が無いのはお前だけだぞ!」


 その言葉を聞き、俺の中で何かが弾けた。


「お前らがこんなイベント考えたからだろ! 俺の所為じゃ無い! お前らが悪いんだ!」


 俺は村長を怒鳴りつけて役場を飛び出した。それ以降、俺に二刀流を催促してくる奴にはぶち切れで返した。もうやけくそだったのだ。


 だが、それから数日後、俺は証明書を発行して貰えることとなった。俺が認められた二刀流は「背が一番高い」と「村一番逆切れする人」だった。

                                 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二刀流村 滝田タイシン @seiginomikata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ