ラブ&ピース

 厚生施設を出た僕は、冬の青空を眺めた。危機がない状態。先輩には執行猶予がついたのだろうか。家に行っても見つからない。大学に行くと除籍されていた。大麻の煙のように消えてしまった。あの人はいたのか?


 青が闇に飲み込まれ、ピンク色のネオンが輝く時間に、紗弥がいた店に入った。しかし彼女の合成写真が見当たらない。ボーイに聞いてもやめたと言うだけだ。


 肩を落として店を出ると、聞きなれた声が僕を呼び止めた。


「おい、アル中」


 僕は表情を変えなかった。


「ジャンキーが偉そうに」


「気分はどうだ?」


「悪くないです。ところで、どこがラブ&ピースなんですか?」


先輩が笑う。


「ここだよ」


先輩の陰に隠れていた紗弥が顔を出した。


「もう家に来ていいよ」


「どうだ?ラブ&ピースだ」


僕は小さく笑ってしまった。


「悪くないですね」


冷めた先輩にしてはめずらしく、僕と紗弥の肩に両腕を回した。


「海に行こう。俺も見たい」


「何であんたも行くんですか?」


「女を探しておいたのは俺だ」


愛と平和は、小さな世界でも輝いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大麻 白瀬隆 @shirase_ryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ