第12話

 それから半年が経っても、戸田は見つからなかった。もちろん、電話をかけてもつながらない。彼は、どこかへ逃れて、新たな人生を送っている。そう思いたかった。そうではない可能性のほうが高いことは、頭ではわかっているが、認めたくない。

 警察に問い合わせても、歯切れの悪い返事があるばかり。彼が少女であれば、もっと違う対応だったのだろうが、現実はこんなものだ。

 戸田のことはもう忘れようと思い始めた頃、弓野と連絡がつかなくなった。彼女、というか彼女の体を気遣ってメールや電話をしたのだが、何日かしてから、やっと彼女から電話がかかってきた。

「どうした? なにかあったか?」

「ごめん。背中の皮、剥がされた」

 彼女の声は、体を圧迫されているかのように苦しそうだった。

「今、入院してるの。でも大丈夫だから」

「吉持にやられたのか」

 吉持の話はあえてさけてきたが、やはり。

「あいつも悪気があるわけじゃないの」

「ふざけるな。背中一面の皮をはがしたんだろ? それで悪気がない?」

「今の再生医療はすごいからね。再生するものは取ってもいいだろうって、あいつなりに合理的な考えで――」

「合意の上なのか?」

「まさか。薬を盛られたの。わたしの体の採寸も、事前に薬を盛って眠らせて済ませてたらしい。もう人体型展示台が用意されてたし」

「警察には?」

「言わないよ」

「だって医者は――」

「ここ、闇医者なの」

「それって、吉持をかばってるってこと?」

 弓野は答えなかった。

「今からそっちに行く」

「だめ。こんな闇社会の場所に来てほしくないの」

「なに言ってるんだよ」

「大丈夫だから」

「大丈夫って、声苦しそうだぞ」

「わたし巨乳だから、安物のベッドにうつぶせでいるときついだけだから。起きていたいんだけど、お医者さんが寝てろって。だったらもっといいベッド用意しろっての」

 弓野は笑ったが、俺は笑えなかった。

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