第55話 希望

手術を行うとヴァイドが決定したはいいものの、そもそも魔力の多い魔族や勇者にも限りはあった。

前代未聞の手術で腹を開けてられる時間は長く無いし延命しても失敗してしまえば呪いでやがて死ぬ。

魔王の時は『やれ』という魔王の命令だったから責任も重くは感じなかった。


だが、これは自分で決めた一人だけの事だ


「……」


一服しても心が休まらない、緊張で手が震える

今度は助けられるかもしれないという希望と自分の腕にかかっている王妃の命

出来はするが『失敗が無い』とは言えない。



「よっ」

「ヘリウズか」

「頼みがあんだが―――地下牢の奴も、手術しちゃくれねぇか?」

「へ」


目が丸くなった、勿論驚いたからである。

ヘリウズは今地下にいる男とは仲が悪い

正義の強い心を持つヘリウズと犯罪ギリギリというかそれなりの犯罪で生きている男。


「無理なら、強くはいわねぇよ」

「出来なくは無いが、魔力がなぁ・・・・・・もう1人くらい魔力が余ってる奴がいれば」

「俺も魔力だけならあるんだけど使えるか?」

「は?お前魔法使えないだろ」

「使えないだけだっての!まあ見てろ、ファイア」


ヘリウズの指先から大きな魔力が抜け出すが、火にはならず煙だけが飛び出て指は焦げた。


「何度やってもこうなるから、諦めて剣士になったんだよ」

「ちょ、ちょっと待ってろ!!」


指が火傷している、元々手がゴツゴツしており傷跡が多い為に分かりにくかったがそれは過去に何度も暴発させておりその度に火傷したことによる物だ。

ということは魔力はあるが扱えていないだけ、さらには今まで外に放出してこなかった

魔力には濃度がある、もし大量の魔力を作れるのに魔法を使わないで過ごしたのであれば



「それは」

「魔力を移すシールだ」

「何でここでアダルトグッズ持ってきた?」

「違う!手術に使うための輸送魔力を施す為のものだ!お前で試させろ!」

「え」

「腕を出せ」


ヘリウズの腕を無理やりまくってシールをつけ、手で触れた


「うわ!?」

「ひ!?」


ヘリウズからすれば、一気に流れる魔力の感覚というのは初めてだった。

大きな魔法を暴発させれば自分だけでなく周囲も巻き込んで殺してしまう為である。


「なんだこれ、気持ち悪い」

「・・・・・・頭痛や吐き気はするか?」

「別に無いけどよ、何で急にセクハラした?」

「例の囚人?だが助けてやろう、その代わりお前も手伝え」

「え」

「手だけ患者について突っ立ってればいいだけだ、あとは俺が上手くやる」

「アンタには何度も助けられたし、あんたが上手くやるって言った時はいつも成功してたからな!俺がそんなことするだけでいいなら手伝うわ」

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