第43話 招く

6024の要望もあり、フリル姫は監禁部屋を訪れたが兵士たちは驚いた。

彼女は自前の羽で飛べるので『空から』城に降りてきたからだった。

羽も角もあるが、魔王だってその姿になる事はあったのだ。





「初めまして、フリルよ」

「えっと、初めまして」


6024の顔にフリルの顔が10cmの所まで来ている

だが怖気づくような事もなく近さにキョトンとした顔である。



「ふーん、これがミナトを堕としたっていうクローンの子?」

「勇者って言わないとまた要らない反感を買うぞ」

「事実は事実でしょ?その程度で怒るような子を妻にしたのかしら?」

「僕きにしないからさ」

「う、うむぅ……」


そして


「ぶっは!!!!!」

「フリルちゃん?」

「あ、あのミナトが妻もって尻にしかれて……笑うなっていう方が、っ無理よね!!」



腹を抱えて笑う姫に、魔王は注意をするように話しかけた


「王女として来てるのにお前、そんなゲラゲラと」

「だって面白いんだもの、ああ心配しなくてもミナトとアタシは旅した仲間ってだけよ?」

「心配?」

「あら、旦那が実は昔の仲間と付き合ってたんじゃーとか心配にならないの?」

「浮気って奴の事?むしろそれぐらいの方が楽だったんだけど」

「俺は一生、6024一途で愛すると誓っている」

「うわぁ、ミナトがアタシ相手に惚気てきた」


パンパンと手を叩いて兵士長は抑制した


「フリルさん、そこまでです、状況を」


するとフリルは腕を組んで目つきが鋭く変わった、緊張の糸が貼り空気が一気に重くなる。


「元々、仲は悪く無いのよ二つの国は」

「私もよく知っています、そもそも今代の王は両国の王家を両親に持つ双子ですし」

「クソみたいな兄弟げんかに国民が巻き込まれるなんて冗談じゃないけど……」


何か、色々と変だな?



「6024、何を考え込んでいるんだ?」

「え?」

「考える時の癖が出ていたのでな」

「いや、フリル姫がくるまでずいぶん早かったなって」

「紙の一つであれば遠くでも魔法を駆使してすぐ届けられるからな」

「でもフリル姫がここまでくるのに、時間が早すぎない?」


隣の国まで、馬で何日もかかる筈なのにと首を傾げていた。



「あら、私の羽があれば3時間程度でとんでこれるのよ」

「国そんなに近い?」

「遠いわよ?羽を持って飛べる魔族ってのは珍しいし消耗も本来激しいの」

「えーと」

「アタシの国だけ速度が別格なのよ、その代わりツノも羽もひっこめられないの」

「そっか」

「ミナトあんたも全力で飛べば私の国まで3日程度でしょ?」

「お前たちと違って俺は空を飛ぶと消耗が激しいからな」


6024が魔王の袖を引っ張った


「ねぇミナト」

「私に出来る事ですか?」


フリルは目を丸くした、『俺様』な感じが少しする魔族だと思っていた彼が『私』と唐突に言ったからである。



「えっ6155、今へんな台詞が聞こえた気がするんだけど」

「あっちが魔王様の元々の口調ですよ、王妃様の前以外では見せません」

「アイツは王妃を溺愛しているとは聞いてたけど、実際にみるとこうもバカップル……っていうか素あんな感じなの?それに眼差しが優しすぎないかしら」


身内がイチャイチャしているのを見せつけられるようなキツイ感覚がフリルを襲う、だがそれだけ愛しているのが伝わっていた。



「フリルさんに乗せて貰える?」

「ああそれは……フリル、出来るか?」


「出来はするけど、あんたが動けばいいだけじゃないの?」

「俺は今魔法が使えないから飛べない」

「溺愛してるからってアンタね……手を出すタイミング考えなさいよ」

「僕のせいだから!」

「ミナトが悪いに決まってるでしょ、実際手をだしたのはミナトだし」


6155が手を叩いて再び発言を制止した。


「そこまでです、現在魔王様と王妃様が抱える事情を説明いたします」




~説明中~



「私たちは早めにこの世界に来た魔族の子孫なの、子供や孫まで全て憎いかしら?」

「僕はもう『人間』だから、同じ人間を怨んだりしない」

「強い子ね、一応乗せて飛ぶ事は出来るけど……回復まで1日かかる、と」

「ああ」

「役立たず連れて行っても仕方ないわね」


「……」


しょんぼりする魔王を6024は撫でた


「ヴァイドは?」

「医務室にいる筈だが、あいつは」

「戦えないっていうんでしょ?だからヘリウズも連れていきたいんだけど……今どこよ?」

「私が代わりに行きます、彼は魔法を1ミリもつかえないのであの国では浮きます」

「浮くの?魔法の使えない旅人とかこないんですか?」

「たしかに魔法が使えなければあの国には行かないのですが理由がありまして、物理的に浮きます。

シグラルは強烈な魔法風が吹いていて魔力で移動するんです」

「じゃあ普通の旅人はどうするの?」

「魔族か勇者か、あるいは魔法の扱いができる一般の民です」

「一般人も魔法を?」


魔族は確かに魔法が使える、普通の人間は使えないのは確かにそうなのだ。

しかし魔族がこの世界にやってきたのは何年も前で

血が薄れたものの魔族の子孫であれば多少使える者もいる、との事だった。


「じゃあ僕が行っても、平気?」

「え」

「よその国が介入できないんだよね?だったら平気かと思ったけど……無理言わないよ」

「それは、叶えてやりたいが」


話をさえぎり、フリルが一言


「所で、ここ王妃様の部屋よね?」

「うん」

「まるで牢獄みたいだけど、まさか監禁されてたりする?」

「……襲われるかもしれないから、仕方ないよ」

「信じられない!自分でそんな所に閉じこもってるなんて!」

「だがフリル、いつまた襲われるか分からないんだ。敵は高等魔法の『ワープ』を使えるようでな」

「それならアタシの国に来てちょうだい、敵はワープの魔法が使えるみたいだけどアタシの国だと吹き荒れる魔力風のせいでワープなんて魔法使えないわよ?」

「あ、そういえばそうだったな」


まるで経験のあるような言い草に


「魔王様、ワープ使えるの?」

「出来なくはない、しかしマジックポイントを使いすぎるのでしばらく動けなくなる」

「セックスの後みたいに?」

「そこまで酷くは無いが……ワープの魔法は魔力が充満しているとうまく作動しないんだ、着陸地点に物体があると失敗するのと同じ理屈で、最も物体にワープなんか出来たら窒息して死にますけどね」

「口調が混乱してるわねアンタ」

「別に僕だけ優しく話さなくてもいいよ?」

「愛しているのにそういう訳にはいきませんよ、気を付けます」


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