異世界からの食材

カティ

第1話 山奥の食堂

世界には異世界の食材を使った料理を出す店が1軒ある。

だがそれは知る人ぞ知る、幻の店であった・・・


「織田先輩、いったい何処にいくのですか?」

「いい店だよ、羽柴。」

羽柴ヨシヒデ、彼は日本随一と呼ばれる企業、源グループに所属するサラリーマンである。

今日は上司の織田ナガノブに契約成立の祝として食事に連れて行ってもらっているところだった。


「しかし、このあたりに店なんてありました?」

「だから知られてないいい店なんだ、お前も誰にも言うなよ。」

羽柴が連れて来られているのは飛騨の山奥だった。

周囲に民家は無くなって随分たつ、羽柴は不安になっていくのだった・・・


「織田先輩、そろそろ戻りませんか?こんなに山奥に店なんて・・」

そういった側から灯りのついた1軒の民家が見えてきた。

「ほら、あるだろ?」

「マジか・・・こんなところに住んでる人がいるなんて。」

「驚くのはまだ早いぞ、さあ店内に入れ。」

織田に言われるまま民家に入って行くと中は十人ぐらいが入れる小料理屋となっていた。


「いらっしゃいませ、ご予約はなされてますか?」

小さな女の子が出迎えてくれる。

この店の娘だろうか?

小学生ぐらいの容姿にであった為に羽柴はそう思うのだ。

「ああ、チイちゃん、久しぶりだね、予約はしてあるよ。」

「ナガノブさん、お久しぶりです。織田様2名の予約ですね。確かに承っています。

おとーさん、ナガノブさんが来たよ。」

「おっ、来たか、久しぶりだな、今日はいい食材を仕入れてあるから楽しみにしてな。」

「大将、こっちの羽柴を驚かせたいからな、食材の内容はまだ秘密にしてくれ。」

「了解だ、チイ、席に案内してくれ。」

「はい、さあこちらにどうぞ。」

織田と羽柴は席に案内される。


「織田先輩、食材が秘密ってなんですか?いったい何を食べさせられるのですか?」

「くくく、楽しみにしてな。それとも俺の飯が食えないとでも?」

「・・・や、やだな、誰も食べないなんて言ってないですよ、ただ、食材が気になっただけで。」

「変わった物とだけ言っておくよ。」

織田は楽しそうに食材の事を言うことは無かった。


そして、出てきたのは・・・

「ステーキ?」

「そうだ、ステーキだ、お前は肉が好きだろ?だから格式ばったものより単純な物を注文しておいたんだ。

さあ、冷める前に食え。」

「織田先輩、何の肉ですか?この食材が不明何ですが?」

「いいから食え、驚くぞ。」

織田の表情から教えてくれないのはわかった。


しがないサラリーマン、上司の気まぐれの為には何でもするしかない。

羽柴は覚悟を決めてステーキを手をつける。


一件固そうに見えた肉はナイフを当てると豆腐の用に切れる。

「これは・・・凄くいい肉ですか?」

羽柴としては高級肉を食べたことは無かった、その為に噂で聞く最上級肉とはこの事かと思うぐらい普段食べている肉とは感触が違った。

「凄い高級だぞ、中々手に入らない肉を用意してもらっているんだ。さあ味わって食え。」

「はい!いただきます!」

羽柴から不安は消えていた、そうだ、今日はご褒美の食事会だ、変な物を食べさせられるわけがない。

きっと高い肉だから気を使わないように隠してくれているのだろう。

羽柴は上機嫌で食べ始めた。


口に入れた肉は溶けるように体内に取りこまれていき、身体の奥まで染み込むように感じる。

羽柴は夢中でステーキを頬張るのだった。

食べ終えた頃にふと気付く、織田が違うものを食べている事に・・・


「織田先輩は何を食べているんですか?」

「見てわからないか?カレーライスだよ。」

「なんで、カレーなんて?いやカレーライスが嫌いな訳じゃないですけど、こんなに美味しい肉を出す店でカレーなんて。」

「ここの店のカレー香辛料が違うからな、一度食べると病みつきになるんだよ。」

「そんな物なんですか?じゃあ、今度来たときはそれを食べてみます。」

「おお、食べてみるといい、ただ少し値段が高いからしっかり稼がないと来れないぞ。」

「カレーライスでしょ?いったいいくらなんですか?」

「ただの客なら百万払っても食べれない、会社で貢献すれば1万ぐらいでは食べれるがな。」

「なっ!高すぎでしょ!それに会社に貢献って・・・」

「この店は我社の資本が入って特別な食材を仕入れているからね、気軽に来れる店じゃないんだ。」

そこで織田がずっと笑いを堪えている事に気付く。

「・・・織田先輩、俺はいったい何を食べたのですか?飛騨牛デスヨネ?最上級の飛騨牛デスヨネ?」

「そんなのはこんな山奥じゃ無くても食べれるだろ?」

「じゃあ、なんですか!」

「大将説明してやってくれるか?」

織田の横には呆れたようにやって来た大将がいた。


「ナガノブさん、また、説明無しに食べさせたんですね。」

「その方が楽しいだろ?」

「はぁ・・・羽柴さんが食べたのはオークの睾丸ステーキになります。」

「オーク?コウガン?」

「はい。」

「オークってゲームに出たりするオークで、コウガンというのはタマタマ?」

「そうです。」

「またまた、大将も冗談が上手い、そんな物が何でここに?」

「私の友人が異世界に飛ばされましてね、その縁で食材を送ってもらっているのですよ。」


「・・・じゃあ、俺はオークのタマタマを食べたの?」

「そうなりますね。」

「あんたはなんてもん食べさせるんだぁ!」

羽柴は大将の胸ぐらに掴みかかる。

「やめろ羽柴、食べさせたのは俺だ。大将は悪くない。」

すぐさま織田が羽柴を引き離す。

「織田先輩も酷いですよ、オークのタマタマを食べさせるなんて・・・」

「美味かっただろ?」

「美味しかったけど・・・それとこれとは話が違います!」


「羽柴、お前結婚して何年だ?」

織田が急に話を変えてくる。

「いきなり何を?十年になりますけど。」

「お前、子供が出来ない身体だそうだな。」

「えっ?」

「奥さんのキタさんが悩んでいるのを、俺の妻が見つけてな。」

「だ、だから、何なんですか!」

「このオークのコウガンには精力増強の効果があるんだ。

もしかしたらお前の身体でも子供が出来るかも知れないと思って連れてきたんだ。」

「えっ、そんな効果が?」

「何せ異世界の食べ物だからな、駄目元でも試してみるべきだろ?」

「それほど、俺の事を気にかけてくれたのですか?」

「かわいい後輩じゃないか、さあ、今日はもう帰るぞ。早く奥さんの所に帰ってやれ。」

「はい!」

羽柴は満足気に帰宅することになる。





後日、子供が出来たと報告が来るまでにそれほど時間はかからなかった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界からの食材 カティ @fortune-Katty

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ