第6話
「えっとぉ……何食べる?」
「俺は何でも」
「何でもって言われると逆に分からなくなるんだけど……」
「そんなこと言われてもな、俺は本当になんでもいいんだけど……」
「うぅ……」
「ていうか、葵って料理作れるんだっけ?」
「なっ……つ、作れるわよ!!」
「そこまで怒るなって……もう」
「むぅ……私だって料理くらいできるわよっ」
6月中旬。
暑い夏もあと少しで春の陽気など消え去った頃。
なんてカッコつけて言いたい年頃だからあまり気にしないでほしい。あの激しくて熱い一夜を共にした二人は思い出の部屋、つまりはおせっせした部屋の真ん中で並んで座っていた。
下らない夕飯のお話をしているわけだが、そんなことはなんのその。正直翔はこの場から逃げ出したい気分だった。
「……っ」
理由はもちろん、彼女。
葵の格好にあった。
半袖にミニパン、上に軽そうなパーカーを着ていて、昨日の反省をまったくと言っていいほど生かさない強気なファッションだったのだ。パーカーのチャックはへその上あたりまでしか上がっていないし、胸元は丸見え。谷間が「こんにちは!」している。
無論、溜息を吐けば巨乳なおっぱいはたぷんと揺れるし、身体を動かせば特大Fカップのそれは振動を伝える。
(む、無防備すぎる……)
大学生とは言えど、先日童貞を捨てたばっかりの
「すぅ……はぁ、すぅ……はぁ」
「なに、どうしたの?」
「——っいや、なんでもない」
「え、うん……」
とはいえ、焦っているのは翔だけではない。
はてな? と首を傾げる葵も葵。
視線が泳ぎまくりだった翔を見て気づいたのだ。自分の着ている服の薄さを、その防御力のなさを。
あまりにもエロ過ぎる。色っぽ過ぎる。
昨日の今日で、この格好は「あかんのでは?」となんとなく感じ取っていた。
(やばいやばいやばいっ。昨日もあんなことしてるのになんで私はこんな格好なのっ。これじゃあまるで誘ってみたいじゃん!)
翔はバイトで、葵はバイトが休み。
翔が来る前に一旦片づけをして、今日は色々話せるからと昨日のことを整理していたのだが——これまた盲点。
部屋着を考えていなかったのである。
これはほんとに高校生からの癖で高校の頃の友達にも、今ならよく
別に淫乱とかそういうわけではない―—らしい。
それに、今まで男が家に来るなんて考えてもみなかったから気にしてこなかっただけでもある―—らしい。
ただ、とにかくそこに目がいってなかったのが今になって恥ずかしくなっているというわけだ。
正直、翔のスーツ姿も相まって、巨乳ロリ娘と会社終わりのお父さん感があってかなり手遅れに感じるが葵は諦めてはいなかった。
「っ——えっとぉ、その……ご飯は結局ぅ」
ご飯について着目すれば―—と決死に注意を逸らす。
「何でも……」
「だからなんでもじゃよく―—」
「でもなぁ……」
難色を示す翔。
このままではこの格好を見られ過ぎて色々とヤバい。
そう思ったのも束の間、溜息を吐いて翔が立ち上がるとこう言ったのだ。
「……いや、やっぱり俺が作るよ」
「——え、でも私がっ」
「いや、なんか葵に任せておくとちょっとろくなものでてこない気がして」
「ちょっ―—別に!」
これで着替えてこれる―—なんて思ったのだが、
いきなりのディスりに少しイラっとした。すぐさま、葵は翔に飛びつこうとして我に返って、手を止める。さすがにこの格好で飛びついたら胸がくっついてしまう。
谷間丸見えの極デカペェペェがくっついてしまう。それだけは回避せねばいけない。そうしたら淫乱になってしまうし、一昨日まで処女だった自分の名が泣く。
「わ、分かったわっ! じゃあ作ってください‼‼」
「えっ……お、おう」
結局、今日のところは翔に明け渡すことにした。
台所に立った翔は二度目の深呼吸をしていた。
「ふぅ……一旦、落ち着こう」
(刺激が強すぎ……昨日見たはずなのになぁ、ていうかなんだ? あれは何? 誘ってるのか? もっかいやれって……いいのかな、いやでもさすがに今日は俺だって色々話したくて来たわけだし……まじで葵の考えが分からん。ポンコツのくせにちょっと策士なところがあるのが難点過ぎる)
ただ、こういう時こそ焦ってはいけないと親に習ったことがある。受験もそうだった。知らない問題が出ても焦らず丁寧に解いていく、飛ばしてたり、逃げたり、作戦を立てる。
とにかく、ご飯を作ってやり過ごしながらどうやって話すか模索すべきだと冷静に考えていく。
(それと……流石にあの格好は俺の目には余るから着替えてもらおう)
心の中でそう呟きながら、翔はフライパンを振るった。とにかく、今は冷静になることだ。落ち着いて考えてから、ご飯をしっかりと食べてからでも遅くないのだ。もっとゆっくり、焦らずに行こう。
それが最善だ。自慢の炒飯で胃袋を掴んでからでも間違いではないだろう。死んだじいちゃんも「女は台所に立つ男を好きになるんだぞ!」と言っていたではないかと今更ながら思い出したのだった。
「よしっ——」
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