竹と料理物語 五つの難題をクリアしたら美少女と婚約できるってマジですか?

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第1話 あるところにテクニシャン翁ありけり。


 今は昔。竹取のおきなという者ありけり。


 その翁は国で一番、手先が器用な男だった。


 それはもうビックリするほどのテクニシャン。指がもう、蛇みたいにウネウネ動いちゃう。小指の第一関節だけ動かすとかできる? 普通できないよね? でもね、翁ならそれができちゃう。



 そんな黄金の手ゴールデンハンドを持つ翁だから、女子からモテることモテること。幼い頃から、凄まじい女の子泣かせだった。もはや光源氏もビックリ。当時は国一番の美人だった婆さんですら、翁のテクニックに惚れ込んだ。


 絵巻に出てくるチート主人公並みのモテ翁だったが、意外にも彼は勤勉に働いていた。その器用さを生かし、細工の仕事で生計を立てていたのである。


 朝からその辺の山に入って竹を取り、夜は細工で小物を作る。まとまった数ができれば、知り合いの商人に頼んで、他の村やみやこで売ってもらっていた。


 彼が編んだ竹製のバッグは、その時代では考えられないほどのハイクオリティだった。商人が売ったそれらはたちまち評判となり、みやこの女子の間でもヤバいくらいバズっていた。



 ある日のこと。調子に乗った翁は、婆さんに隠れて竹で美少女フィギュアを作った。何を言っているのか分からないと思うが、翁は


「これは絵巻映えする。万バズ間違いないわ」


 と言って、毎晩夜なべをしながらコツコツと作業をしていた。



 そして一週間後。遂に翁は、可愛らしい少女の姿をした竹人形を本当に創り出してしまった。


 実際それは竹で作ったとは到底思えないような、本物の少女と見紛みまごうほどの素晴らしい仕上がりであった。翁はその出来栄えに、両手を叩いて喜んだ。



 でもその竹人形の存在は結局、婆さんにバレた。で、メッチャ怒られた。浮気者、と言って杖でボッコボコに殴られた。


 夜中に竹人形を前にハァハァしているところを見付かったのだから、婆さんがブチギレるのも仕方がなかった。



 竹人形はその場で没収された。ついでにその月のお小遣いは無しになり、翁はわんわん泣いた。



 そして夜が明けた、次の日。



「なぁ、翁さんや。なんだか、人形が動いていやしないかい……?」

「うぅん。見間違いでなければ、たしかに動いているのぉ……」


 翁と婆さんが起きてくると、くだんの竹人形が囲炉裏の前で二人を出迎えていた。


 婆さんは昨晩、台所に置いてある薪山まきやまの中に竹人形を隠したはずだった。

 最初は昨晩の折檻せっかんねた翁が、くだらない悪戯をしたのかと疑った婆さんだったが、一晩中縄で縛っておいた翁がそれをする隙はなかったと思い直した。


 なにより、目の前にいる人形は自分でパチパチと瞬きをしている。これはもはや、ただの人形ではない。



「どうするんですか、コレ」

「どうするかのぉ……」


 なんとも間の抜けた返事だが、困惑するのも仕方のないことだ。まさか、竹で作っただけの人形に魂が入り込むとは誰も思うまい。



『……』


 騒ぎ立てることもなく、おとなしく二人を見つめる竹人形。


 元々可愛らしい造形をしていた竹人形だったが、こうして見ると可愛らしさが倍増だ。



「こうみると、本当の娘のようですのう……」

『……?』

「くぅ……あざといのぅ……」


 人の言葉が分かるのか、すまし顔の竹人形は婆さんの方を見てコテンと首を倒した。


 表情に感情が無い分、わざとらしさなど微塵も感じられない。あぁ、可愛らしい。



「そうじゃろう! やはりワシの腕は天才じゃの!!」

「調子に乗るんじゃありませんよ。来月もお小遣い無しにされたいんですか?」

「……すまん」


 婆さんにとがめられ、シュンと肩を落とす翁。


 だが騙されてはいけない。これはブラフなのである。内心ではどうせ、これはしめたと思っているはずだ。


 竹人形は商売になる。こっそり内職をして、失った分の小遣い稼ぎをする算段を立てているに違いない。その証拠に、翁の指がウネウネと動いている。頭の中ではすでに何を作ろうか考えているのだ。


 いまいち反省の見えない翁に、婆さんは思わず深い溜め息を吐いた。



「はぁ……仕方がないですね。これも何かの縁です。きっと天にいる神様が、子供の居ない我が家に娘っ子をさずけてくれたのかもしれません」

「婆さん!! 良いのか!?」


 急に元気になった翁はキラキラと目を輝かせ、横にいた婆さんの肩を掴んだ。


 数十年前に自分を口説くどいてきた時のような強引さ。それに子供のような笑顔をしている。


 どれだけ経っても変わらない翁に、婆さんはやれやれと言った顔をしながら、少しだけ声をはずませてこう答えた。



「山に捨てるわけにもいきませんでしょう? 私達で大事に、この子を育てましょう」


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