誕生日パーティー

 部屋の電気の消えた、たゆたうロウソクの火だけが光源となった闇の中。バースデーソングを歌う二人の男女の声が響いていた。


 そんな中、少女――真那は目の前の一生懸命息を吹きかける。そうしてロウソク全ての火が消えると、部屋の明かりが点いた。


「「誕生日おめでとう、真那」」


「うん! ありがとう。お姉ちゃん、陽翔お兄ちゃん」


 二人からの祝福の言葉に、真那は喜色を滲ませた声で感謝を告げた。


 本日は真那の誕生日当日。誕生日パーティーということもあり、室内は飾り付けが施されていて、華やかな内装になっている。飾り付けは、陽翔と真澄が二人がかりで行ったものだ。


 テーブルの上には普段は目にできない数多のご馳走が並んでおり、そのどれもが見ているだけで食欲をそそられる。これらは全て真澄の手で作られたものだ。


(誕生日だから美味いものを作るとは思ってたけど、ここまでとはな……)


 元から真澄の料理の腕は知っていたが、ここまでとは思ってもみなかった。素直に賞賛するしかない。


 そんな美食が置かれたテーブルの上で一際存在感を放っているのは、誕生日におけるメインの一つ、バースデーケーキだ。白のクリームに覆われた円形の上に、大量に載せられたイチゴ。中央には『お誕生日おめでとう』と書かれたチョコプレートが置かれている。


 流石にケーキまで手作りする余裕はなかったようで、ケーキだけはお店で購入したものとなっている。


「お姉ちゃん、早くケーキ食べよう!」


「ケーキはまだ早いですよ。先にご飯を食べてからです」


 そう言って真澄はケーキを持ち上げると、台所まで運び冷蔵庫に入れた。


 それから戻ってきた真澄は先程までと違い、手に紙袋を持っていた。真那は真澄の持つ紙袋が気になるのかジっと見ていたが、陽翔には紙袋の中身が何なのかすぐに見当がついた。


 真澄は席に着くと、隣に座る真那に紙袋を手渡した。


「真那、私からのプレゼントです。受け取ってください」


 紙袋を受け取った真那の表情が、パっと輝いた。


(渡すなら、今が丁度いいタイミングだな)


 真澄に倣って、陽翔も足元に用意していたラッピングの施された箱を真那に渡す。


「真那、俺からもプレゼントがあるんだ。受け取ってくれ」


「陽翔お兄ちゃんも用意してくれたの? やった!」


 真那は嬉々として陽翔からのプレゼントを受け取った。陽翔までプレゼントを用意しているとは思わなかったのか、陽翔がプレゼントを用意してくれたこと事態に喜んでいるように見える。


「ねえねえ、今すぐ開けてもいい?」


「いいぞ」


「いいですよ」


「やった!」


 真那は早速渡されたプレゼントに手を伸ばす。どちらから開けるか悩む素振りを見せたが、最終的に真澄のプレゼントから開けることに決めたようだ。


 紙袋から取り出し、包装紙を破る。中から出てきたのは、桜色のアウターだった。


「お姉ちゃん、これ……」


「これからどんどん寒くなっていきますからね。それに去年着ていたものは、もう小さくなってしまったでしょう? それを着て風邪を引かないよう気を付けてください」


「うん、ありがとお姉ちゃん! 大事にするね」


 真澄のプレゼントがかなりお気に召したようだ。姉なだけあって、妹の好みは完璧に把握しているということか。流石というしかない。


 真那はひとしきり喜んでから真澄のプレゼントを丁寧にしまうと、今度は陽翔のプレゼントを手に取った。


「次は陽翔お兄ちゃんのプレゼントだね。えへへ……陽翔お兄ちゃんはどんなプレゼントを用意してくれたのかなあ」


 真澄のプレゼントが余程嬉しかったのか、真那の瞳がキラキラと期待で輝いている。陽翔のプレゼントにかなりの期待を寄せているのは明らかだ。


 一応真那が喜んでくれるものを陽翔なりに考えて選んだが、ここまで期待されてしまうと少し不安を覚えてしまう。


「楽しみだなあ」


 上機嫌な様子でラッピングの施されたプレゼントの箱を開封する。中から出てきたのは、クマのぬいぐるみ。真那は身体が小さいため、相対的にぬいぐるみも大きく見えてしまう。


「…………」


 真那一言も発することなく、ただジっとぬいぐるみに視線を注ぐ。気に入ったのかそうでないのか、陽翔の目では判別がつかない。


 しかし次の瞬間、


「この子……凄く可愛い!」


 真那はぬいぐるみをギュっと思い切り抱きしめた。それだけで、陽翔の知りたかったことの答えは得られた。


「見て見て、お姉ちゃん。陽翔お兄ちゃんのプレゼント、こんなに可愛いよ!」


「良かったですね、真那。戸倉君にちゃんとお礼を言うんですよ?」


 真澄に促され、陽翔の方に向き直る。


「陽翔お兄ちゃん、ありがとうね」


「気に入ってくれたようで何よりだ」


 ここまで喜んでくれるのなら、用意した身としても悪い気はしない。わざわざ真澄に協力してもらった甲斐もあるというものだ。


「凄く嬉しいよ! ずっと大切にするね」


 ぬいぐるみを大事そうに抱えながら、真那は笑顔で言った。






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