第26話 僕と遊園地③
さくらパークはこの辺ではわりと有名な遊園地である。あの有名なねずみの国のような壮大なスケールや、VRコンテンツのような近代的アトラクションはないが、よく言えば味のある昔ながらの遊園地といった感じだ。
どちらかというと子供が家族連れで来るイメージだが、学生や大人も久しぶりに行くと童心に帰れる、らしい。
僕も最後に来たのは小学生のときなので結構久しぶりだ。友達と遊園地に来るなんてイベントが、まさか僕の高校生活に訪れる日がこようとは。
感動だ。
受付で入場チケットとフリーパスを購入する。このフリーパスがあれば園内のアトラクションは全て楽しむことができるそうだ。
「さて、とりあえず受付行きますか」
「スタンプラリーの受付は正面ゲート前さくらショップって書いてあるので、すぐそこだと思います」
「よっしゃ行くぜー!」
まるで子供のように走っていく五十嵐さんについて行ったのは宮村さんだった。
そういえば楽しみすぎて早起きしちゃったって言ってたもんなあ。
「なにぼーっとしてんの。行くよ」
綾瀬さんがこちらを振り向いて僕を呼ぶ。慌てて三人に追いつくのだった。
スタンプラリーはアトラクションに乗ることでスタンプを押してもらえるコースと、アトラクションに乗らずとも園内に設置されているスタンプを押す二つのコースがあった。
それぞれコンプリートした際の景品は違うようで、しかもランダムで配布なので推しが当たるかどうかは運次第だ。
興味はないだろうが、綾瀬さんもスタンプシートを持たされていた。
「どのアトラクションから乗る?」
「とりあえず最初はウォーミングアップがてら軽いのから行っとこうかね」
というとメリーゴーラウンドやコーヒーカップといった遊園地の定番アトラクションのことだろうか。
そう思ったが違った。
五十嵐さんが迷いなく進んだ先にあったのはジェットコースターだった。
「……軽いのとは?」
「これはこの遊園地では軽い方だよ? あれ、もしかしてまるっちは絶叫ダメな人?」
「いえ、そういうわけでは」
露骨にヤバそうなのは怖いけど。
園内マップを見てみると確かにジェットコースターは三種類ある。
子供は乗れない完全に大人用のもの。
子供も大人も乗れる普通のもの。
子供も大人も乗れる子供用のもの。
確かに見てみると明らかにヤバいほどの大きさではない。左の方に見えるガチめのコースターは少し怖いがこれくらいなら何とか。
「宮村さんは怖くないんですか?」
「遊園地といえばジェットコースターっしょ!」
親指を立てながら宮村さんは元気ハツラツに言う。そうだよね、楽しみすぎて早起きしちゃったって言ってたもんね。
「それじゃあレッツゴーだよ!」
「おー!」
「……ん?」
やけに静かだと思って振り返ると、綾瀬さんは青ざめた顔をしていた。聞かなくても分かるが、明らかにこのジェットコースターを怖がっている。
「どうしたの、えりぴ。まさかジェットコースター怖いとか言うつもり?」
「えー、絵梨花は大丈夫でしょ。ジェットコースター乗れる顔だもん」
五十嵐さんと宮村さんは彼女のこの恐怖に満ちた顔がわからないのか。まさか分かった上で言っているドSだとは思えないが。
「……は、はは。当たり前でしょ。ちょっと考え事してただけだし」
顔が引きつっている。
ちらと頭上のコースターに視線をやって、表情をさらに強張らせる。
「あの、無理しなくてもいいのでは?」
「……うっさい。変なこと言ったら殺すわよ」
ドスの利いた声なのに震えているのでいつものような怖さはなかった。しかし、そこまでの覚悟があるなら何も言うまい。
見届けよう。
いつもカッコいい綾瀬さんの勇姿を。
日曜日とはいえ開園間もないからか待ち時間も大してなく、わりと早く僕らの番は回ってきた。
楽しみにしている五十嵐さんと宮村さんからすれば嬉しいことだろうけど、僕の後ろで覚悟を決めている途中の綾瀬さん的には辛い展開だろう。
「乗るペアどうする?」
ジェットコースターは二人横並びでの乗車らしく、二人ずつに分かれる必要がある。
こういったシチュエーションにおいて、僕が何か発言することはない。流れに全てを任せるだけだ。
「あ、じゃああたし丸井と」
「二人は一番前楽しみなよ。あーしはマルオの隣でいいわ」
「え」
え。
「そーいうことならさなち、前乗ろうぜー。ジェットコースターは一番前が一番楽しいからねー」
「あ、うん……そだね」
二人が前に座り、僕と綾瀬さんはその後ろに座ることになる。座ってシートベルトをすると、あとは安全バーを下げるだけ。
この安全バーが上から下ろすタイプか下にあるタイプかでそのジェットコースターのレベルがある程度予想できる。
これは上から下ろすタイプなのでわりとしっかりしたジェットコースターと見た。
「……」
どうして僕を指名したのかはもう聞くまでもない。ガタガタと震えるほどではないものの、明らかに恐怖に襲われているこの姿を二人に見られたくはなかったのだろう。
僕も極力見ないようにしておこう。
音が鳴る。
いよいよ出発のときだ。ガコンと揺れて、コースターが進み出す。コースに出るとすぐに巻き上げがある。
ガタガタと揺れながらその巻き上げを上っていくこの瞬間が、苦手な人からすれば最も恐怖する瞬間だろう。
そして、コースターは頂上へと到達し、落下の瞬間が訪れる。
ダメだと分かってはいるけど、どうしても気になったので隣の様子を一瞬だけ確認する。
「……ぅぅぅ」
「……」
見なきゃよかった。
普段の綾瀬さんからは想像できないくらい弱々しく怯えている顔だったから。
「きゃあああああああああ!」
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおお!」
「わ、あ、おおおおおお!?」
「う゛う゛う゛う゛」
一人だけリアクションがマジでダメなやつでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます