第24話 僕と遊園地①


 空気が冷たくなり、吐く息が白くなると冬の訪れを感じる。

 十二月に入り、世間は着々とクリスマスムードに突入する。この頃になるとクリスマスが今年もやってくるCMが流れ始め、ああもうそんな時期かってなる。


 でもあのCMを見て感じるのはクリスマス感というよりは年末感なんだよな。

 クリスマスと言っているのに、今年ももう終わりかって思う。


 それでも学校は毎日ある。さすがに寒いので制服の上からコートなりマフラーなり、防寒をする生徒がほとんどだ。


 もちろん僕もその一人。

 教室は暖房がついているので、入った瞬間に体が体温を取り戻す。トイレでさえ、出たくなくなるのがこの時期の嫌なところだ。


「まるっち!」


 そんな感じで、冬の訪れと暖房の素晴らしさを噛み締めていた僕のもとへとやってきたのは五十嵐さんだ。


「な、なんですか?」


 朝から元気な人だ。どちらかというとテンション低めで、それを一定に保つのがデフォな五十嵐さん。

 そんな彼女がこうして荒ぶっているときは、だいたい何かしらの情報に興奮しているときだ。


「これを見給え」


 言いながら、スマホを見せてくる。

 そこにはとあるイベントページが表示されていた。


「ナナシスとさくらパークのコラボだよ!」


 ナナシスというと『セブンシスターズ』というゲームが原作のアニメのことである。

 そのアニメがさくらパークという遊園地とコラボするのだ。もちろん僕もその情報自体は知っていた。


 発表されたのは結構前だからな。コラボ開始はつい先日だっただろうか。


「ああ、そういえばもうやってるんでしたっけ」


「知ってたの、まるっち?」


「ええ、一応」


「どうして言ってくれないの!? 情報の共有はマストでしょう!」


 非常に荒ぶっている。

 最近スマホをよくいじっているところを目撃していたが、あれはナナシスをプレイしていたらしい。

 ガチャの結果とか報告してくるようになって知った。


 もちろん、僕もプレイしている。


「いや、僕はあんまりイベント系は」


「興味ないの?」


 え、嘘だろ? みたいな顔をする五十嵐さん。


「興味がないわけでは……。ただ、そういうイベントに一人で参加するのはちょっと辛いし、かといって誰か一緒に行ってくれる人がいるわけでもないので」


 何なら興味はある。これまで何度もそういったイベントを諦めてきたのだ。


「私がいるじゃん! 今度行こうぜ、まるっち!」


 ものすごくきらきらした目を向けてくる。こんな顔されると断るに断れない。


 いや、そもそも断る理由はないのだけれど。


「えっと、僕でよければ喜んで」


「決定だね。ああ、楽しみだなあー。バイト増やそうかなあ」


 お金溶かす気満々だなこの人。いいファンだよ。


「何の話してるの?」


 そんな僕らのところへやって来た宮村さんと綾瀬さん。どうやらさっき登校してきたらしい。


「今度さくらパークに行こうって話をしてたんだよ」


 むふふ、とテンションが高いまま五十嵐さんは言う。


「え、二人で!?」


 めちゃくちゃ驚く宮村さん。そりゃ驚くのも無理はないけど。


「そだよー?」


「なななななななんで!?」


「この二人で盛り上がってんだから理由くらい察しなよ」


 動揺をあらわにする宮村さんの隣で綾瀬さんが冷静にツッコむ。一瞬で状況を把握する辺りさすがである。


「ああ、そゆこと」


 言われて、宮村さんはようやく気づく。


「さなちも来るかい? もちろん一緒にイベを回ってもらうことになるけどね」


「いいの?」


「もちだよ」


 五十嵐さんはご機嫌な様子で言う。今なら流れでどんなことにも了承しそうだな。


「いい?」


 宮村さんは僕の方にも確認を入れてくるが断る理由はないし、そもそも断る権利もない。

 

「全然です」


 僕が承諾すると宮村さんは思いついたように綾瀬さんの方を見た。

 

「絵梨花も行こうよ? 二人のテンションについて行けないのあたしだけだと嫌だし」


「そんな理由で誘われましても」


 宮村さんに誘われ、やれやれと頭を掻きながら綾瀬さんは小さく息を吐いた。


「ま、いいけど」


「やった」


「決まりだねー」


 宮村さんと放課後に出掛けたことはあった。


 五十嵐さんとは映画を一緒に観に行った。


 けれど、綾瀬さんのプライベートを覗くのは初めてだ。まさかこの三人と一緒に出掛けることになるとは。


 文化祭準備をしていたときからは想像できない現実だ。まさか僕がクラスの女子と遊びに行く日が訪れるとは。


 しかし。

 これまではあった不安のようなものはなく、その日を楽しみにしている自分がいることに少しだけ驚いた。

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