第4話
「今日もお疲れさまです」
スケートリンクは夜遅くなると選手クラスの人達の貸し切り利用に切り替わる。明日の仕事もあるのでこれ以上滑りたいわけではないのだけれど、少し寂しい気がするしズルい気もする。
だからといって、ここから先の時間に氷の上にいることは迷惑でしかないのだ。先生もこれから練習らしく、教えるときの格好から練習着へと着替えていた。
「先生こそ。これから練習ですよね。頑張ってください。大会も近いんですよね」
大きな大会は終わっているけれど細かいのがいくつか残っていると誰かが言っていた気がしたのでそう声をかけたのだけれど。ちょっと先生の顔が曇ってしまった。まずい話を振ってしまったのだろうか。
「あっ。いやごめんね。ちょっと最近伸び悩んでてて」
「先生でも悩むんですね」
だから素直に感想が出たのだけれど。先生はそれも驚いたみたいに見えた。
「ありますよ。コーチと選手。両方やるなんて無理だ。そんなことばかり聞こえてきます。自分でも思ってるんです。どっちもはもう無理かもって」
意外な姿に驚きっぱなしだ。でもレベルは違うけれどなんとなくわかる気がした。仕事をしながらスケートをしていると仕事なんて辞めちゃえばいいんじゃない? みたいな考えもしたことがある。でもそれでなんになる。そう思ってしまう自分もいる。
影で色々言われたり。仕事ができないわけじゃないのに。ちょっと付き合いが悪いだけで評価が悪いのも納得行かない。でも、スケートだけに逃げることもしたくないんだ。スケートで生活できるわけじゃない。
「なんもわからないですし。偉そうなこと言ってるかもしれないですけど。先生はちゃんとやってると思います」
それは自分に言い聞かせているようにも思える。
「ふたつやってるんです。どっちも結果を出すなんてそもそも難しいんです。だからちゃんとやってるだけで偉いんです。先生はすごいんです。だから大丈夫です」
根拠もないし。実力もない人間から言われてもなにも変わらない。でも言わずにはいられなかった。
「そうかもしれないですね」
ちょっとだけ悩んでから先生はちょっとだけ笑った。何かを変えられたとは思わない。でもちょっとだけでも軽くできたのならば。それで良かったのだと自身にいい聞かせた。
趣味と仕事の二刀流 霜月かつろう @shimotuki_katuro
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