二刀流☆令嬢

戸森鈴子(とらんぽりんまる)

二刀流☆令嬢


 ええい、まさか!

 こんな事があっていいのかしら!


 私の腰に帯刀している二刀が動揺で揺れている。


 世間では二刀流令嬢と呼ばれている私、ヴァレンティーナ。

 男に混ざり剣術を磨く、男勝りの笑われ令嬢。


 私はレイピアと短刀を使った二刀流が得意。

 二刀流を鼻で笑う男達の剣をいくら吹っ飛ばしてきたか。


 私の祖母のマルテーナがその二刀流の考案者。

 歴史も短い。

 それでも素晴らしい剣術に心底惚れ込んで、物心ついた頃からずっと剣を学んできたわ。

 私は、臆病者の父をすっ飛ばしての二代目。


 どこまでも強く! 強く! 強さを求めた!


 そうしたら婚約破棄された。


 皆の前で『お前のような男勝りの下品な我流の二刀流令嬢などと結婚できるか!』と。


 父が勝手に盛り上がって決めた婚約。

 私はお偉い貴族の妻になって、お茶会や刺繍がしたいとは思わない。


 なので私も高笑いしてあげたわ。


「クララ様と私とで二刀流するおつもりだったあなたが、ようやく一本槍をお決めになって良かったですわ~……いえ一本ペティナイフかしら?」


 彼が槍かペティナイフかだなんて知るよしもないけれど

 あんな小者、ペティナイフだと言われても喜ぶべきよ。

 爪楊枝と言えば良かった。


 私は彼の横にいたクララ嬢に平手打ちされそうになったところを左手で払い除け

 婚約者が私を殴ろうとした右拳には、ワイングラスを叩きつけてやったのよ。

 我流などと侮辱した罪は償ってもらうわ。


 そんなわけで、私は家から勘当。

 二刀流令嬢はただの女になってしまったの。


 着の身着のまま追い出され、荷物は宝物のレイピアと短刀。

 でも、ドレスなどいらないわ。

 髪を切り男装をして私は旅立つ、孤独のままに――。


 と思っていたのに……。


「お嬢様……好きです……大好き……」


 ええい、まさかよ……。

 こんな事があっていいのかしら……。


 私の横にはメイドのアリス。

 ずーっと私の傍にいてくれた姉上メイド。


 追い出された私の後を追って、今一緒に幌馬車の荷台に乗っている。

 私の腕を抱いて離さない。


 私の腰に帯刀している二刀が戸惑いで揺れている。


「やっと二人きりになれましたね……」


 はぁ~二刀流だったのは私のほうだったのよ。

 あんな男にはなんの興味もなかったけれど、他に愛してる人がいる――。

 ずっと気付かないふりをして、自分をごまかしていたのに。

 長年の恋心の重さを、今思い知っている。


 家を出た私を泣きながら追いかけてきて、私の隣で、ずっと……秘めてた想いを延々と聞かされているところ。


「お嬢様、これからもずっと二人で二刀流を極めていきましょうね」


 アリスは私の姉弟子。

 姉……なのに、まるで乙女のように私を見るのね。


 剣を振るってる時の勇ましさとは真逆のデレデレが、とてもとても可愛らしい。


 なんにもない二刀流の女になってしまったけれど、だから今やっと

 貴女にこの気持ちを打ち明けられるかしら……。


「アリス……えぇ、ずっと一緒よ、この二刀に誓って……」


「お嬢様……」


 貴女を愛する気持ちは一筋に――そう誓ってアリスにキスをした。


 幸せね。








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