第12話 町役場へ行ってみよう



 俺は今、クノックスの町の町役場に来ている。役場の建物は石造りで頑丈にできている立派な建築物だ、中も広い、2階建ての大きな建物だ。


役場というのはどこも変わらない、日本に居た時みたいな市役所みたいな感じだ。造りも建物の中のレイアウトも似たようなものだ。カウンターがあり、住民が座る椅子がある。カウンターの奥は役場の職員達が何やら書類仕事をしている。


役場の中には人が沢山居て、俺の順番に回ってくるのに少し時間が掛かった。お、次は俺の番だな。


「次の方、どうぞ」


役場の職員に言われて、俺はカウンターの前に来て職員の女性に尋ねた。


「すいません、身分証を発行して貰いたいのですが、」


「身分証の発行ですね、この町に入る時に衛兵の方から木札を受け取りませんでしたか? 」


「あ、はい、受け取りました」


「では、それをこちらに渡して下さい」


俺は衛兵から貰った木札を取り出し、職員の女性に渡す。


「はい、確かに、それではこちらの書類に書き込んで下さい」


そう言って、職員の女性は一枚の紙を渡してきた、そこには何か文字が書かれていたのだが、俺にはまるで日本語の様に読める。しかし、問題が一つ、俺はこの世界の文字が書けない。困ったな。文字は読めるのに字が書けない、そういえば何でだ? 俺はこの世界の文字が解る。ただ見た事も無い文字の為、書けない。


「あのう、すいません、俺は字が書けません」


「あら、そうなのですか、わかりました、私が代筆いたします、質問に答えて下さいね」


「はい、すいません、よろしくお願いします」


「気にしなくていいんですよ、文字の読み書きが出来ない人は多くいますので」


そうなのか、この世界の識字率は低いという事か、・・・文字の読み書きか、いつか誰かに教わろうかな。いや、しかし、この歳で勉強は頭に入らないだろう、何事も無理はよくない、少しずつやっていこう。


「それでは、まずはお名前から教えて下さい」


「あ、はい、吉田 太郎と申します」


「ヨシダタローさんですね」


「あ、いえ、ヨシダが苗字でタロウが名前です」


「あら、家の名前があるのですか? もしかして貴方は貴族様ですか? 」


「あ、いえ、違います、貴族ではありません、俺の居た国では苗字があるのです」


「そうですか、では、ヨシダ・タローさんですね」


職員の女性は書類に書き込んでいる、タローではないんだが、まあ、いいか。ヨシダで通じれば。


「次は職業なのですが、ヨシダさんの職業は何ですか? 」


「え~と、民間人です」


「民間人? 変わったご職業ですね、平民や農民ではないのですか? 」


「いえ、ただの民間人です」


「そうですか、民間人、っと、それでは最後にご出身はどこですか? 」


「出身ですか? 」


さて、困ったぞ、賢者様からあまり日本の事は言わない様、秘密にするようにと言われているんだよな。今ご厄介になっているレクリオ村の事を説明した方がいいのかな、なるべく嘘は付きたくない、だがこの際仕方が無い、どの様にして説明した方がいいのか? ええーい、南無三。


「あのう、実は非常に申し上げにくい事なのですが、自分の出身地がわからないのです、俺がまだ小さい頃、この国に来たのですが、自分がどういう国の名前の出身だったかは覚えていないのです、今はレクリオ村でご厄介になっていますが、出身をレクリオ村にできませんか? 」


職員の女性は顎に手を当て、何か思案している様子だった。


「うーん、そうですか、その様な経緯があったのですね、・・・何か手掛かりとかは無いのですか? 」


「そうですねえ、・・・うーん、・・・やっぱり思いつきません、すいません」


「そうですか、・・・本当は駄目なのですが、出身地をレクリオ村(仮)、と書きます、こんな事は特例ですよ、いいですね」


「はい、ありがとうございます、申し訳ないです、」


「まあ、事情がお有りなのですから、致し方ないですね、これで身分証を発行できます、暫くお待ち下さい」


そう言って、職員の女性は何かの機械っぽい物に書類を通している、しばらくして、チーンっとまるで電子レンジみたいな音がして、何かカードの様な物が出てきた。


「はい、出来ました、これがヨシダさんの身分証になります、いいですか、犯罪などの行為を働きますと、この身分証は剥奪致しますので、行動には十分に気を付けて下さいね」


「はい、気を付けます」


俺は職員の女性から身分証を受け取る、何か厚紙で出来たカードだ、それには俺の名前、職業、出身地が書かれている。よーし、これで俺にも堂々と町中を歩けるぞ。


「それでは、以上になります、お疲れ様でした」


「はい、ありがとうございました」


俺はゆっくりと歩き、町役場を後にする。


これで、この町での俺の用事は済んだな、ラッシャーさんと合流する為に、この町の噴水広場まで行こう。確かそこで待ち合わせだったよな。俺は早速、この町の広場がある中央あたりに向かう。


 噴水広場までやって来たのだが、周りを見渡してもラッシャーさんの姿はまだどこにもなかった。まだ商人ギルドでの用事が終わっていないのかな、しばらく待っていよう。


俺は噴水近くにあるベンチに腰をかけ、寛(くつろ)ぐ。周りを見てもやっぱり色んな人種がいる、異世界に来てしまったんだなと、思い起こさせる。何気に地面に落ちている小石を拾い、力を入れて握ってみる。


ゴカッ


小石は粉々に砕けてしまった、うん、これは俺の力ではない。間違いなくスキル「ストレングス」のお陰だろう、スキルは常に発動するタイプのパッシブスキルってヤツかな。同じ様に「タフネス」のスキルもあるので、何らかの事に作用しているだろう。


「そうか、スキルや魔法がある世界なんだよな・・・」


まるでゲームか何かの様に思えてくるのだが、間違えてはいけない。これは紛れもなく現実だ、行動は慎重にしなくては、発言にも気を付けよう。


改めて俺のステータスを確認する。・・・このスキルポイントってヤツはおそらく新たなスキルを習得する為に必要なポイントだと推察できる。俺には1ポイントのスキルポイントがある、これを使って何かスキルを習得したいな。どうすればスキルを習得する事ができるのかな? 試しに色々やってみよう。


「スキル習得、スキル、スキル表示、スキル習得画面表示、・・・」


駄目だな、今度は頭の中で思ってみるか、スキル習得したい、と念じてみる。すると・・・


「お! 何か頭の中で思い浮かんだぞ」


俺の頭の中で、色んな種類のスキルが思い浮かんだ。なるほど、これでいいのか、よーし、早速スキルを何か習得してみるか。えーと、何がいいかな。・・・そういえば俺のユニークスキルは「スキル付け替え」だったな、これを有効に活用するスキルの方がいいよな、他人のスキルにも干渉できるかもしれないんだったよな、・・・だったらここはやはり、「鑑定」のスキルを習得するべきだよな。


俺は早速スキルの「鑑定」を習得したい、と念じる。・・・これで習得出来た筈だ。あとはこのスキルをスキルスロットに装備すればいい筈だ。俺は「鑑定」のスキルを空きスロットに付けるイメージをする。


「よし、これでよかった筈だ、一つ試してみるか、まずは自分の事を「鑑定」だ」


俺は自分自身を「鑑定」する。・・・すると、頭の中で俺のステータスが表示された。


名前 ヨシダ

職業 民間人


ユニークスキル スキル付け替え


スキル

・ストレングス

・タフネス

・回復魔法

・鑑定

・なし

・なし


スキルポイント 0P


おお! うまいこといったな、どうやらうまく出来たみたいだぞ。ちゃんと「鑑定」のスキルもスロットに装備されている、なんだ、やれば出来るじゃないか、俺。


それにしても、ホント、ゲームみたいだな。しかしこれで俺のユニークスキル、「スキル付け替え」も有効だとわかった、試しに町行く人を「鑑定」してみよう。どれどれ・・・


俺は通行人の一人に「鑑定」のスキルを使ってみた、すると頭の中にその人の名前と職業、スキル等が思い浮かんだ。通行人は何もスキルを持ってはいなかった。


「おお!? すごいな、こんな事も解っちゃうのか、すごいぞ、鑑定スキル」


俺は内心、とてもワクワクしている、自分がまるでゲームキャラになったかのような気分になる。


「しかし、浮かれてばかりもいられない、俺には日本に帰るという目標があるからな、それまでは慎重に行動しなくては」


俺は気を引き締め、これからのこの世界で、どうやってやっていくかを考えるのだった。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る