第11話 クノックスの町でお買い物



 俺は賢者ルカインの塔を出て、もう一度クノックスの町に入る。壁門のところにいる衛兵に、この町に最初に来た時に貰った木札を見せて、町の中へと入る。


「そうか、異世界に来てしまったんだな・・・、」


改めて町の様子を見る為、辺りを見渡す、・・・そこには人々が活気に満ちていて、確かにそこに生きづいている。とてもゲームきっかけから転移したとは思えないくらいに現実味を帯びていた。間違いなくここは異世界で、これは現実だ。走れば疲れるし、殴られれば痛い、おそらくモンスターに襲われる事になると命の危機に直面するだろう。この世界にはモンスターがいる、人々はそれらに対抗しながら日々を生きている。


「何時、日本に帰れるかわからない訳だし、しばらくはこの世界に厄介になる事になりそうだな、賢者様が言うように、まずは生活基盤を何とかしないと・・・」


しかし、思い付く事といっても、精々自分がこの世界のどこかのお店か何かで働く事ぐらいしか思い付かない。後は、・・・冒険者、・・・とか・・・。いやいや、俺みたいなおっさんに冒険者なんて無理無理、冒険者ってあれだろ、モンスターの討伐クエストとかあるだろう、俺には無理だよ、モンスターと戦うなんて。


「まあ、しばらくの間はレクリオ村にご厄介になる、って事で、村で何かお手伝い出来る事って何かな? 何かあるだろう。ミランダさんの家に厄介になるなら何か畑仕事の一つでも手伝わないと、・・・あ、そうだった、買い物を頼まれていたんだっけ、早速行こう」


俺はミランダさんに頼まれていた買い物をしようと、町の中を歩く、え~と、確か塩と食用油だったよな、そういった物は大抵、食料品売り場あたりに行けば、調味料売り場とかに売っているだろうし、いや、待てよ、俺は何処にお店があるのかわからないぞ、うーむ、町行く誰かに聞いてみよう。


俺は通行人のあばちゃんに声を掛ける、若い女の子に声を掛ける勇気は無い。


「すいません、ちょっとお尋ねしたい事があるのですが」


「はい、なんですか? 」


「お塩と食用油を売っている所って、何処にありますか? 」


「ああ、調味料ね、それならこの道をまず大通りまで行って、左に曲がった所が食料品等を売っているお店が建ち並んでいますから、その中の一軒か二軒が調味料品店ですよ」


「大通りまで行って左ですね、どうもありがとうございます」


俺はおばちゃんと別れ、大通りへ向かって歩き始めた。親切なおばちゃんで良かった。


大通りまで歩いて、大きな道に出た、ここを左だな、俺は左に曲がり、しばらく歩く。すると生の肉の匂いがしてきた、ここだな、食料品売り場が建ち並ぶお店ってのは。


周りを見ると色んな肉や野菜、果物などが露店に売られていた。お店の中にも何かの食べ物が売られている様だ。


「えらい活気があるなあ、混む時間帯なのかな? 」


それにしても、色んな人がいるんだな、人間に、耳が長いから多分あれはエルフだろう、身長が低くて髭もじゃでずんぐりむっくりした体形のドワーフッぽい人に、ぱっと見人間に見えるが、耳と尻尾が生えているから、多分あれは獣人ってヤツなのかもしれない。とにかく色んな人種がいる。活気があって賑やかだな。


俺は商店街を道なりに歩く、おっと、ここだな、調味料が所狭しと並んでいるお店に到着した、早速買い物だ。ミランダさんに頼まれたからな。俺はお店の人に声を掛ける。


「すいませーん、欲しい物があるのですが」


「はい、いらっしゃいませ、何をお望みですか? 」


「お塩を紙袋一つと、あと食用油をこの瓶に入れて下さい」


俺はそう言って、ナップサックから空き瓶を取り出した。


「はいはい、お塩は大銅貨2枚、食用油は量り売りになります」


俺は空き瓶をお店のおばちゃんに渡す、おばちゃんは空き瓶を量り機に置いて、錘(おもり)を用意した、おばちゃんは空き瓶に黄色い透明色をした食用油を瓶に入れていく。瓶に油がいっぱいになるまで注がれて錘を増やしたり減らしたりしながら、重さが均等になるように量っている。


「うん、大体こんなもんかねえ、お客さん、食用油は大銅貨2枚と銅貨8枚、鉄貨3枚だよ」


ふむ、合計で大銅貨4枚と銅貨8枚、鉄貨3枚か。俺は財布から大銅貨5枚を取り出し、おばちゃんに渡す。


「はいよ、大銅貨5枚ね、・・・はい、お釣り銅貨1枚と鉄貨7枚だよ」


俺はお釣りを受け取る、ふむ、お釣りは銅貨1枚と鉄で出来た硬貨が7枚か、という事は、鉄貨10枚で銅貨1枚と同じ価値という訳か。銅貨10枚で大銅貨1枚っと。なるほどな、大体理解した。


俺は油の入った瓶に蓋をして、ナップサックの中に入れる。ついでに聞きたい事があるので聞いてみた。


「おばちゃん、この辺に煙草って売ってない? あと、肌着も欲しいんだけど」


「煙草に肌着かい? それならこの道を通り抜けて左に曲がった所に雑貨屋があるよ、そこなら肌着を売っているよ、煙草屋はその隣にあるよ」


「そうですか、どうも」


「毎度あり~」


俺は商店街を進み、商店街の出口まで歩いて来た。ここを左だな。


俺は左に曲がり歩く。財布の中身を確認すると、まだお金は少し残っている。肌着と煙草が買えるといいけど。


しばらく歩くと、色んな物が置いてあるお店に到着した、ここが雑貨屋だな。俺はお店の中へ入る。


「いらっしゃいませ~」


お店の人に挨拶された、接客は笑顔で対応している。中々いい店そうだな。肌着を買わないと、幾らなんでも同じ下着のままって訳にはいかないだろう。清潔にしないと。


「すいません、男物の肌着が欲しいんですが」


「はい、肌着どすね、こちらになります」


そう言って、お店の女の子は男物の肌着を何着か持って来てくれた。


「どれになさいますか? 」


「うーん、そうですねえ、あまり派手なのは好みじゃないので、この灰色の肌着を下さい」


「お一つで宜しかったですか? 」


「はい」


「銅貨5枚になります」


俺は財布から銅貨を5枚取り出し、店員に渡す。


「丁度頂きます、ありがとうございました~」


俺はナップサックに買ったばかりの肌着を入れる。


「どうも、」


俺は店を後にする、後は煙草が買えればいいんだが。確か隣のお店だったよな。


すぐ隣のお店が確かに煙草の匂いがするお店だった、さて、煙草は幾ら位かな、俺は早速隣の煙草屋へ入る。


「すいません、ここは煙草屋ですか? 」


お店の中は落ち着いた雰囲気のするお店だった、店の店主も落ち着いた感じのするご年配の方だった。渋い男って感じだ。


「いらっしゃいませ、当店は煙草を扱っております、何をお求めですか? 」


「紙煙草ってありますか、あまりキツイ感じじゃなく、香り高い感じのヤツで」


「ふむ、でしたら、この煙草の葉はいかがでしょうか、試飲してみますか? 」


「よろしいのですか? 」


「勿論でございます」


「それじゃあ、試しに吸わせて頂きます」


俺は店の店主がおすすめする煙草の葉をパイプに入れ、火を付けてパイプを使ってゆっくりと味わう。


「う~~ん、この苦味、そしてこの香り、さらにあまりキツく無いこの感じ、いいですな、この煙草は」


「当店でも人気のある煙草ですよ、特に御年を召した方に人気がございます」


「なるほど、この味、納得です」


「他にパイプ等もございますが、いかが致しますか? 」


「あ、いえ、俺は紙煙草派なので、・・・う~ん、うまい、・・・そういえば、煙草の火を付ける道具というのは幾らくらいするものなのですか? 」


「ああ、それでしたら、初歩火魔法の《トーチ》の魔法が掛かった魔道具があるのですよ、魔道具ですのでいくらか値は張りますが、お求めになりますか? 」


「・・・魔道具だったのですね、すいません、実は今、持ち合わせがあまり無くて」


「左様で御座いますか、そうですな、火を付ける魔道具は銀貨3枚となっております」


銀貨か、財布の中を見たところ、銀で出来た硬貨は見当たらない、銅貨ばかりだ、俺には買えないな。


「ありがとうございます、とても良い煙草でした、この紙煙草を20本下さい」


「ありがとうございます、1本鉄貨3枚ですので、合計で銅貨6枚になります」


俺は財布から銅貨を6枚取り出し、店の店主に渡す。煙草を一つのケースに入れて貰って、煙草を買う。


「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


「はい、おそらくまた来ます、」


俺は煙草の入ったケースをナップサックに入れて、煙草屋を後にする。


「うーむ、いい煙草が買えたぞ、食後が楽しみだ」


さてと、ミランダさんに頼まれたお使いは済んだし、煙草と肌着は買えたし、あとは身分証か。確か役所で発行して貰えるらしいな、よし、町役場へ行ってみるか。


俺はクノックスの町の中を歩き、町役場の場所を通行人に聞き、身分証を発行して貰おうと、教えてもらった場所を目指すのだった。煙草が買えたのもミランダさんのお陰だな。感謝しよう。








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