第7話 


 翌日アイビーはあんずの事を監視していた。あんずはその日ボランティアに行っていた。施設まで着いて行くと、陰からあんずの姿を見つめていた。


「あの女やめたいとか言いながら、あの笑顔。どうゆうつもりだよ」


 あんずはいつもの笑顔で施設の人と喋っている。恐らく色んな人に、出たら会おうと約束しているようだ。



 その時。


「ユリちゃん?」


 アイビーは声のする方を振り返ると若い女の人が立っていた。


「やっぱり!ユリちゃんだ」


「私、ユリじゃありませんよ」

 

「何言ってんの?ユリちゃんじゃん、懐かしー」


「あのー、人違いですよ」


 アイビーは困っていた。


「角田さん!ちょっと!」


 施設の人が走ってきた。


「すいません、色んな人にユリちゃんユリちゃんって言ってるんですよ」


 その女の人は施設の人に連れていかれた。アイビーがあんずから目を離している間に交流は終わっていた。


「やべっ、帰ったかな」


 あんずを見失ったアイビーは仕方なく帰る事にした。事務所に帰ってくると潮田が話しかけてきた。


「昨日は話出来た?」


「それが、蓮のやつ全然聞く耳持ってくれなくて。俺が守るんだとか言って出て行った」


「蓮君はまだまだ子供だね」


「潮田さん!」


「分かってるよ、ごめん」


「もう自分でもどうしてあげたらいいのか分からなくなりましたよ」


「本人が聞く耳持たないんじゃどうしようも出来ないからね。今はその子の事しか見えてないだろうし」


「なんか‥‥疲れた」


 アイビーは心身共に疲れていた。


「うーん。どうしたものかな」


 潮田も頭をかかえていた。


「‥‥蓮は可哀想なやつなんですよ」


 アイビーが言った。


「可哀想って思ってるのは周りだけかもよ。本人は以外となんとも思ってないよ」


「そうだといんですけど。ちょっと自分、蓮の様子見てきます」


「分かった、気を付けてね」


「はい」


 アイビーは蓮の家に行ってみる事にした。


 コンコンコン!


「蓮、いるか?」


 ガチャ


「何の用?」


 蓮がドアを少し開けて覗く。


「入るぞ」


 アイビーはドアを開けると蓮の家に上がりソファに座る。


「いきなり出ていくなよな」


「そっちこそいきなり怒鳴ったくせに」


「お前、その子と一緒に居たいんだろ」


「うん」


「だったら何か変わった事が一つでもあればすぐ報告する事」


「別れろとか言わないの?」


「昨日は感情的になって言っただけだから」


「ありがと」


「自分にとっても蓮は大事だから、それだけはわかってほしい」


「わかった。ちょっとあんずさんに電話してもいい?」


「勝手にしろ」


 蓮はあんずに電話する。


 プルルルル


「もしもし、蓮君?」


「あんずさん今どこ?」


「家だけど」

 

「これから行ってもいいかな」


「大丈夫だよ」


 蓮は電話を切る。


「あんずさんに考える時間欲しいって言ったら、すごく不安そうな顔してたんだ」


「それで?」


「だから今後の事話し合ってくるよ」


「なんて言うつもり?」


「それは会ってから考える」


「そうか」


「じゃあ行ってくる!」


 蓮はあんずの家へ向かうのであった。


「‥‥ソが」


 アイビーが呟く。



 ピンポーン


「蓮君‥‥入って」


「うん」


「来てくれたって事は、考えがまとまったって事だよね」


「あんずさんはどうしたいのかまず聞かせてほしい」


「私は、パパの言いなりになるのはもう嫌。でも逆らうとまた殴られるんじゃないかと思うと怖くて‥‥」


「俺、考えたんだけど、とりあえずボランティアは続けてほしい」


「えっなんで?!蓮君は嫌じゃないの?」


「嫌だよ。でもあんずさんが殴られるのはもっと嫌だ」


「蓮君‥‥」


「その代わり、なるべくあんずさんの側に居るよ。正直俺仕事してなくても生活していけるんだ、だから一緒にいよ?」


 蓮には所長から残された多額の遺産がある。


「ずっと?」


「うん、ずっと」


「ありがとう」


 そう言ってあんずは泣き出してしまった。


「あんずさん泣かないでよ」


「だって‥‥蓮君が優しいんだもん」


 (‥‥あんずさん)


 蓮はあんずをそっと抱き寄せた。


 (これでよかったんだよな‥‥)

 

 蓮はあんずの近くにいる事で守ろうと決めたのだ。


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