第5話 


 翌日、事務所にはアイビーと潮田の姿があった。


「おはようございます」


「おはよう、で、どうする?」


「どうするとは?」


「昨日言ってた事だよ」


「あぁ、調べるって言っても何からしたらいいのか」


「アイビーは知ってる事ないの?」


「確か施設にボランティアとして訪問してるみたいですよ」


「じゃあまずはそこからだね」


 二人はあんずについて調べ始めた。


 しばらくすると、蓮がやってきた。


「おはよ」


「おぅ、おはよ」


「何してんの?手伝うよ」


「いいよ、今日は暇だから遊んでこいよ」


「いいの?」


「うん」


「分かった、じゃあ忙しくなったら呼んで」


 そう言うと蓮は出掛けて行った。


 (あんずさん大学かな?ちょっと覗いてみようかな。でも人多いな、まぁブラブラしてたらいつか会えるだろ)


 蓮はあんずから聞いていた大学に来ていた。


 (しっかし、俺とは無縁な所だなぁ)


 あんずを探しながら辺りを散歩する蓮。


 (あっあれ、あんずさんかな?)


 蓮はあんずらしき人物を見つけ、駆け寄る。


「あんずさん!」


「ん?蓮君?!」


 あんずが蓮の声に振り向く。


「‥‥あんずさん、その顔どうしたの」


「‥‥‥」


 あんずは片目に眼帯をしていたのだ。


「昨日はしてなかったよね?」


「‥‥今日は早退しようかな!ちょっと待っててくれる?」


「うん」

 

 あんずは荷物を取って戻ってきた。


「急に来たからビックリしたよ。うちくるよね?」


「うん」


 二人はあんずの家へと向かう事にした。


 (あんずさん言いたくないのかな。でも俺が帰った後か朝に怪我したって事だよね)


 蓮は気になっていた。


 家に着くとあんずはベットにダイブした。


「あんずさん?」


「蓮君、こっち来て」


 蓮はあんずの近くに寄る。


「しよ?」


「えっ?」


「‥‥お願い」


 あんずが蓮に抱きつく。


「でも俺‥‥」


 蓮は戸惑っていた。しかし次の瞬間寝息が聞こえた。あんずは眠ってしまっていたのだ。


 (辛い事でもあったのかな)


 蓮が布団をかけてあげ側に寄り添うと、あんずの目から涙が落ちる。その時蓮はあんずの事を守ってあげたいと強く思った。

 

 気付けば日も暮れ、部屋は薄暗くなっていた。


 (俺、いつの間にか寝てたんだ)


 あんずは眠ったままだ。


 (側にいた方がいいよな、何があったか知らないけど、泣くほど辛いって事なんだから)


 蓮はあんずが目を覚ますまで側にいる事にした。


 しばらくするとあんずが起きる。


「蓮君、ごめん私寝ちゃってた」


「いいよ、無理しなくて」


「うん、最近さ、色々あって気持ちがついていかなくてね」


「そうなんだ」


「でもね、蓮君といる時は忘れられるってゆうか、心が落ち着くの」


「よかった。こんな俺でも役に立ててるんだね」


「気になるよね」


「ん?」


「この怪我」


「うん、それどうしたの?」


「本当はね、言いたくないし、言ったら絶対嫌われるって分かってるんだけど。もう限界なの‥‥」


「そんなに限界になるまで一人で何を抱えてるの?」


「蓮君はさ、離れないって言ってくれたけど、私がどんなに悪いやつでも?」


「‥‥悪い事、してるの?」


「私が聞いてるの」


「俺は‥‥俺はあんずさんが大切だから、例え悪い事してても離れないよ。それに本当はしたくないんでしょ?泣くほど辛いんでしょ?だったらなおさら離れないよ」


「信じていいよね?」


「当たり前じゃん」


「私ね‥‥」


「うん」


「パパに殴られたの」


「えっ‥‥」


「ビックリするよね、私もビックリしちゃった」


「大丈夫?‥‥なわけないよね」


「うん。昨日蓮君が帰った後、実家に行ったの、その時ちょっと喧嘩しちゃって」


「悪い事、してないじゃん」


「その喧嘩の内容がちょっとね」


「なに?」


「すごく言いづらいんだけど、私のパパ売人なの」


「‥‥‥」


 蓮は言葉が出なかった。


「正しくは売人のボスなの」


「あんずさんも関わってるって事?」


「私は‥‥」


「もしかしてボランティアと関係があるの?」


「ごめんね。最初は蓮君の事騙そうと思って近づいたんだ」


「俺に?何か関係あるの?」


「私がやってる悪い事って言うのはね、ボランティアとして施設にいる人と仲良くなった後、出たら会う約束をするの。みんなすごく期待して約束の場所に来るんだけど、結局私は行かなくて、ガッカリした所に売人を寄越して再び薬を売ってたんだ」


「最低、だね」


「本当、最低だよね」


「せっかく施設で普段通りの生活に戻れた人の弱みに漬け込むなんて」


「‥‥私だってしたくてしてたわけじゃないよ」


 あんずは思わず泣き出してしまう。


「ちょっと」


 (困ったなぁ‥‥)


「ごめんなさい、本当にごめんなさい」


 あんずは過呼吸になる程泣き続けている。


「分かったから、とりあえず落ち着いて」


 蓮はどうにかなだめようとした。あんずが泣き止むまで、蓮はどうする事も出来ないでいた。


「蓮君、ごめんね‥‥」


「さっきから謝ってばっかじゃん」


「だって‥‥」


「詳しく聞かせてくれる?」


「‥‥うん。もうボランティア行きたくないって言いに行ったの、昨日」


「それで殴られたって事?」


「今まで、パパに口答えした事なかったから」


「酷いね」


「私、蓮君の事本気で好きになったの。だからメモを残したんだ」


「そうだったんだ」


「でも本当に連絡くれるとは思ってなかったからすっごく嬉しくて」


「それであの時泣いてたの?」


「本当私って泣き虫だよね」


「で、これからどうするの」


「やめたい、こんな事もうしたくない」


「俺も出来ればやめてほしいって思ってる。でもそんな簡単な話には聞こえないし」


「パパを止める事は難しいと思う。警察に通報しても相手にしてもらえなくて」


「ちょっと時間ほしい」


「えっ。離れないって約束したよね?信じていいって‥‥」

 

「離れないよ、絶対。でも今後どうしたらいいのか考える時間がほしい」


「‥‥分かった」


「また連絡するよ」


 蓮はそう言うとあんずの部屋を後にした。


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