第3話 

 翌朝起きるとアイビーはまだ眠っている。


「アイビー、起きて」


 蓮が起こす。

 

「んー。もお朝か。久しぶりにぐっすり寝たよ」


「仕事、行かなくていいの?」


「準備しろ、一緒に行くぞ」


「えっ今から?」


「いつでもいいけど、早い方がいいだろ」


「分かった、待ってて」


 そう言うと蓮は準備をした後、二人は家を出ると歩いて向かう。


「ここから近いの?」


「すぐそこだよ」


 事務所は10分ほどの所にある。アイビーの後ろをついて入る蓮。


「お疲れ様です」


 アイビーが言い、そこの所長らしき人に蓮を紹介する。


「所長、こいつが蓮です」


「話は聞いてるよ、出勤は自由だけど、自分の仕事はちゃんとこなしてね」


「はい、頑張ります」


「じゃあ蓮君の事はアイビーに任せたから」


「はい」


 アイビーはそう言うと事務所にいた人に一緒に挨拶して回ってくれた。


「今日は特に何もないからその辺フラフラするか」

 

「俺、ちょっと出てくるよ」


「そっか、分かった。明日起こしに行くから」


「うん、じゃあ!」


 蓮はそう言うと出て行った。


「若いから体力はありそうだね」


 アイビーにそう言ってきたのは、同じ事務所の潮田だ。


「そうですね、でも蓮に期待はしないで下さい。可哀想なやつだから」


「随分肩入れしてるね」


「そんな事ないですけど」


 その頃蓮はあんずに連絡して会っていた。


「よかった、連絡くれて」


「ゆっくり会えるの今日ぐらいしかないと思って」


「そう、じゃあ行こっか」


 蓮と腕を組むあんず。


「う、うん」


 蓮は照れていた。


「顔赤いよ?熱?」


「違うよ、なんでもない」


「ふーん。じゃあどこ行くー?」


「あんずさんは何したいの?」


「そうだなぁ、遊園地でも行かない?」


「俺、行った事ないよ?」


「じゃあなおさら行ってみようよ!」


 あんずは蓮の腕を引っ張り遊園地に連れて行く。


「どお?楽しいでしょ?」


「うん!」


 蓮はあんずと楽しんでいた。しかし、それを物陰から、いかにも怪しそうに見ている人物がいた。


 アイビーだ。


「あれがボランティアの子か」

 

「そんなに気になるの?てかなんで俺まで?」


 隣には潮田がいた。


「一人で遊園地は流石に目立つかなって思って」


「アイビーは尾行慣れてるでしょ?」


「まぁ」


 アイビーと潮田はしばらく監視している。日も暮れてきた頃。


「この後はどうする?今日も帰っちゃうの?」


 あんずが甘えた声で蓮に聞く。


「今日は夜まで大丈夫だと思う」


「えー夜まで?朝までの間違いじゃないの?」


「えっ?」


「うち泊まってよ」


「それは流石に‥‥俺たち付き合ってるわけでもないし」


「嫌、なの?」


「嫌じゃないけど‥‥」


 蓮は困っていた。


 (正直嬉しいけど、あんずさんと一晩過ごすなんて、そんな勇気ないしなぁ‥‥)


「‥‥なにやってんだよ」


 アイビーが呟く。


「もしかして二人の会話聞いてるの?」


 潮田が聞く。


「えぇ、まぁ」


 アイビーはこっそり蓮のポッケに盗聴器を仕込んでいたのだ。


「どんな会話してるの?」


 潮田が聞くもアイビーは耳に手を当てて真剣な表情をしている。


「お願い、もっと蓮君と一緒にいたい」


 あんずが蓮を見つめる。


「‥‥分かった、今日だけなら」


「やったー!じゃあ疲れちゃったしそろそろ帰ろっか!」


「そうだね」


 蓮はドキドキしていた。


「いつまで着いて行くの?」


 潮田がアイビーに聞く。


「とりあえず、もう少しは」


「蓮君の事好きなの?」


「違いますよ!潮田さん、あいつが施設いた事知ってますよね。心配なんですよ、またいつ手を出すか分からないし」


「ふーん。まぁ付き合ってあげるよ」


「ありがとうございます」



「そうだ、ちょっとごめん」


 そう言って蓮はアイビーに電話をかける。


 プルルルル


「わっ電話だ」


 ビックリするアイビー。


「もしもし」


「アイビー?俺、明日直接事務所行くから起こしに来ないでね」


「なんでだよ」


「なんでも!じゃあね!」


 蓮はそう言うと電話を切った。


「バレるのが嫌なのかよ」


 アイビーは不満そうだ。蓮はあんずの家へと入って行った。


「おじゃまします」


「どうぞ」


「そうだ、シャワー浴びておいでよ」


「明日帰って入るから大丈夫」


「そんな事言わずにさ、汚れたままじゃ私が落ち着かないよ」


「あっごめんね。そこまで考えてなかったから」


「いいよ、じゃあ先どうぞ?」


「うん、借りるね」


 蓮はシャワーを借りる事にした。


 (この流れって‥‥まさかな)


 蓮は悶々としながらシャワーを上がる。


「ありがとう、スッキリしたよ」


「じゃあ私も入ってくるから、ゆっくりしててね」


「うん」


 蓮がくつろいでいるとあんずが出てきた。


「お待たせ。すっぴんだからあんまり見ないでね」


 恥ずかしそうに手で顔を隠している。


 (やばい、可愛い‥‥)


 蓮はあんずの顔も仕草も可愛くて仕方なかった。


「じゃあ蓮君はこっちね」


 あんずがベットを指さす。


「俺はソファでいいよ」


「ダメだよ、私が誘ったんだから」


「あんずさんにソファで寝させれないよ」


「じゃあ‥‥一緒に寝ない?」


「えっ?俺も一応男だよ?」

 

「‥‥知ってるよ」


「やめといたほうがいいって」


「私たちさ、付き合わない?」


「えっ?」


 あんずの突然の告白に動揺する蓮。


「私の事嫌い?」


「嫌いじゃないけど」


「けど、なに?」


「正直嬉しいけど、あんずさんと俺じゃあ釣り合わないよ」


「酷いこと言うんだね」


「気を悪くしたならごめん。でも自信ないから」


「私が自信つけてあげる、だからそんな事言わないで?」


「本当に俺でいいの?」


「蓮君じゃなきゃダメなの」


「分かった。じゃあ、よろしくね」


「ありがと、蓮君大好き」


 あんずはそう言って蓮に抱きついた。


「お、俺も好きだよ」


 蓮はあんずが愛おしく思えた。



「どうした、アイビー」


 潮田が聞く。

 潮田とアイビーはあんずの家の側にいた。会話を聞いていたアイビーの顔は曇っていた。


「もう大丈夫そうです。帰りましょう」


「そっか、分かった」


 そして、二人は事務所まで帰ってきた。


「元気ないぞ」


 潮田が心配そうにしている。


「お腹空いたんですよ」


「じゃあ飯行くか」


「大丈夫です、今日はありがとうございました」


 そう言うとアイビーは帰って行った。


「変なやつだな」


 潮田は呟きながらアイビーの背中を見送る。


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