ワーキングママの時短テク

陽澄すずめ

ワーキングママの時短テク

 午後五時。私はパソコンの電源を落とし、帰り支度を始めます。

 同じ課の人たちはこれから残業ですが、私は定時で上がらねばなりません。少し心苦しいですが、幸いなことに同僚には恵まれました。

 「お先に失礼します」と頭を下げれば、「お疲れさまでした」と皆さんからは快い挨拶が。毎日ありがたいことです。


 さて、大変なのはここからです。

 駆け足で駅へと向かい、ちょうどやってきた電車に飛び乗ります。今日もタイミングはミラクルばっちり。最短時間で家路に着きます。

 急行で二駅、各停に乗り換えて三駅。自宅最寄り駅で降りた私は、駐輪場から自転車でひとっ走り。

 目指すは、我が子の待つ保育園です。


 仕事中は高速タイピングでタスクを裁くベテラン事務員の私ですが、ここからはママの顔。

 そう、言わば二刀流なのです。

 この頃は働くママも多いので、そう珍しいことでもないですね。


 保育園で子供をピックアップし、自転車の後ろに乗せて自宅へ。

 家に到着した時点で既に午後六時すぎ。さっと荷物を片付けたら、今度は夕飯の準備に取り掛からねばなりません。

 今日はハンバーグを作るのですが、玉ねぎをみじん切りしたり、付け合わせ用のキャベツを千切りしたりと、なかなかの手数です。


 九時には子供を就寝させたいので、八時すぎには風呂に入れる必要があります。そのためには、七時には夕飯を食べ始めたい。まさに時間との勝負です。

 二刀流ママにとって、如何に夕飯を手早く用意するかということは死活問題に関わります。

 この慌ただしさに心をすり減らす人も多いのではないでしょうか。


 さて、そんなあなたに、私が編み出したとっておきの時短テクをご紹介したいと思います。

 キャベツを一瞬で千切りにする裏ワザです。


 キャベツひと玉と、よく研いだ包丁を準備してください。キャベツはしっかり身の詰まったもの、包丁は使い慣れたものが良いでしょう。

 そして盛り付け用の皿を並べて置いておきます。

 まな板? この裏ワザでは使わないので、邪魔にならないようにしまっておきましょう。


 さて、これから実演しますのでよく見ていてくださいね。

 まずはキャベツを高く垂直に放り投げます。できれば天井すれすれまで。

 直後、用意した包丁を右手に持ち、予め懐に忍ばせていたもう一本の包丁を左手に持ちます。

 膝と足首のバネを最大限に利用して自らも高く跳躍してください。

 キャベツと己の体が時を同じくして最高地点に到達した刹那、互いの動きが止まって見えるはずです。

 右と左、それぞれの手に握った刃を疾風の如く閃かせます。身を切り裂く旋風つむじかぜをイメージすると良いでしょう。千切り、つまり平行に刻んでいかねばなりませんので、二本の包丁が交差しないように気を付けてください。手首のスナップを上手く使うのがポイントです。

 この説明の間にも、私は右で三十二撃、左で二十六撃入れました。やはりどうしても利き手の方が多くなってしまいます。

 まだ対空時間がありますね。地に降り立つまでの間に、可能な限り多くの斬撃を入れてください。当たり前のことですが、刻む回数が多ければ多いほど細かく美しい千切りになります。

 まだいける。まだ。まだ! 最後まで諦めないで!


 はい、お皿を見てください。

 千切りキャベツが、綺麗にこんもりと山盛りになっているでしょう。


 あっ、痛っ!

 芯だけ残ったキャベツが頭に当たりました。

 私いつもこれやっちゃうんですよね。おっちょこちょいなので。皆さんは上手く避けてくださいね。


 あぁ良かった。これでどうにか七時には夕飯を食べ始められそうです。

 仕事に主婦業に。私のような二刀流ママに必須の時短テク、ぜひあなたも試してみてくださいね!



—了—

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワーキングママの時短テク 陽澄すずめ @cool_apple_moon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ