馬鹿と保護者

燈樹

馬鹿を諭す

 いつも通りの昼下がり、いつも通りにあの馬鹿は言ってのけた。


「やっぱ俺、二刀流極めてみようかなと思う」


 そう不意に言い出した相方に、思わず私は頭突きをかました。


「ッ──!? 何すんだよ!」

「それはこっちのセリフだ馬鹿。何が二刀流だアホ」


 そしてもう一撃お見舞いする。

 頭突きした私の頭もヒリヒリと痛いが、このバカを黙らすためならば今しかないと目を瞑ることにしよう。元はと言えば二刀流なんかに憧れているこのバカが全て悪いのだ。コイツの考えを改めさせなければ今後もジリ貧生活は続いていくのだろう。


「お前は何を持つまで二刀流を極めてみようと思ったわけ? 理由を述べよ」

「そりゃ、カッコいいじゃん」

「反吐が出る考えだなこの阿呆。カッコいいでおまんまは食えねぇんだよ」

「で、でもよ! ホラこの前あったS級の人はすげぇ強かっただろ? 俺もそれもに習って……」

「それはあの人が強ぇからだよ馬鹿。かなりの年月苦悩して磨いた技だって分かるだろが。そんじょそこらの人間が、それこそD級になりたての私やお前が頑張ったところで彼のようになれるわけがない。まずお前がすることは今の剣術を磨くこと、そうだろが」

「ウッ──で、でも、今から頑張れば二刀流になれない?」

「片手剣もまともに扱えないくせに何言ってんの? 馬鹿なの? アホなの? 死にたいの」

「ゥ──」


 何を隠そう私達は冒険者なりたての田舎者。剣術や魔法だってまだまだ半人前以下の人間だ。そんな人間が憧れだけで生きていける世界ではない。

 そりゃあ何年も何年も技術を磨けば両手で剣を扱えるようになるかもしれない。だが扱えるようになる前に死んだら意味がないのだ。

 ただでさえ二人だけのパーティで苦労が多いというのに、この馬鹿の実力が伴うまで私がコイツの粗を庇いながら戦えと?

 笑わせてくれる。


「どうしても二刀流を極めたいというのなら、まずは利き手と同じくらい逆の側も力をつけることから始めなよ。それに右と左、別々な動かせなきゃいけないから常にどう動くかも考えなきゃね。両手が剣で塞がるってことはいざという時ポーションは飲めない。飲むためには敵の隙を窺う目も養わなきゃならない。────お前にできる?」

「ゥッ──、でき、ない、かも」

「だろ。じゃぁどうする?」

「……今はコレで頑張る」

「そうしてくれ」


 がくりと肩を落とした馬鹿を前に、私は深々とため息をついた。


 背景父さん母さん、おじさんおばさん。

 何故あなた方がコイツに私を付けたのか理解しました。この馬鹿だけではこの先生きていけません。

 私を付けたのは正しかったでしょう。

 ですがね、皆様。少しは私の気持ちも考えて欲しいものです。


「こんな奴が許嫁なんて、地獄やん」


 もう既に許嫁兼保護者の二役は辛くなっている所存です。


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馬鹿と保護者 燈樹 @TOKI10

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