とあるTRPGプレイヤーの卓

国見 紀行

二刀流、という縛り

「まあ、こんなもんかな」

 月末にいつものメンバーで行うTRPGテーブルトークアールピージー会がある。それに使うシナリオが、ようやく完成した。といってもササッと作ってあとは当日、アドリブをきかせて遊ぶのだからほぼ一本道。そんなに難しくもないし、なんならキャンペーンでもないからすぐ終わる。

 とはいえ、今回はスタートにちょっと趣向を凝らしてみた。これでクエストの達成がちょっとやそっとじゃ終われない、と悟ってくれればいいが……

 俺はシナリオを完成させた手癖で、そのまま簡単な導入のフレーズとキャラクター作成要求を記載したメールを作ると、メンバーへ一斉送信した。


「こんばんわ諸君。ようやくシナリオが完成した。日時は前回に決めた通り。それまでに以下の要件を満たしたキャラクターを作って当日持ち込んでくれたまえ。

・条件1:キャラクターはメインの職業の他にもうひとつ職業を持つ

・条件2:戦闘があるため、どちらか、あるいは両方を戦闘職にすること

・条件3:時代背景に制限はない。国の縛りもない。魔法と銃が混在も可。


 導入は、ネットRPGで遊んでいた一行が突然謎のクエストに強制参加させられる。クリアしないと元に戻れない! どうする……? っていう感じで。

 以上」



 ゲーム会当日。

 いつもの場所…… ウチの家のガレージの二階。冷暖房冷蔵庫ホットカーペット常備の十二畳の小部屋。これでトイレと風呂があれば暮らせるのだが、残念ながら水回りはせいぜい水道くらい。

 そこに男女五人が大きな机を囲んで座っている。

「よお。なんか面白そうな条件付けてきたな。まあ、どれだけ難しかろうがシナリオクラッシャーの俺にかかればすぐクリアよ」

 そんな物騒なことを言うのが田中。言葉通りシナリオを壊すプレイングが得意だが、これはあいつの頭の回転の良さがむしろ伏線を拾い上げすぎてまったく罠に引っかからない、というのが本来の意味だ。頼むからかかってくれ。

「職業が二つ使えるっていうのは、ボーナスもあるってことでいいのかしら?」

 ふんわりとした喋り方をするのが癒し担当の佐藤さん。喋り方のように天然ボケ担当だが、意外とシナリオに深く入ってくれるためにゲームキーパーをしていて楽しい。いや、シナリオ担当として冥利に尽きる。

「二つと言わずに三つくらいあってもいいんじゃない? コイツ私のキャラいっつも死ぬ寸前まで追い詰めるんだから」

 そう罵倒しながらもしっかりキャラメイクしてくるこいつは飯田さん。めちゃくちゃ突進タイプのプレイングなのに、作ってくるキャラは中衛系ばっかり。頼むから守られてもらえませんかね? あなたのキャラの耐久じゃあそりゃすぐ死ぬんですわ。

「今回も期待していますよ。園咲くん」

 俺の名前を呼びながら宅に付いたのが一番の悪役…… もとい、参謀の黒田。田中なみに頭がいいくせに、自分から罠にかかろうとしない。口八丁で飯田さんに罠へ誘うもんだからメンバー同士で殺し合いが始まっちまう。

「さあ、みんなどんなキャラを作っていた? 自己紹介風に見せてってよ」

「よし、じゃあ俺からな! 確か時代背景は特にいいんだよな? ネットRPGの世界っぽいの、難しくてさ~」

 最初はやはり田中か。

「名前はマック・パティ・ハミデトル。職業はサムライ! 二次職はニンジャ! 普段は日本刀で戦うが、手裏剣とかも得意! 必殺技は日本刀と忍者刀の両方を使っての二刀流!」

「ちょ、ちょっと待て! カタカナ名前なのにサムライとニンジャって」

「外国の人が憧れてこの職業を始めた、って設定だぜ」

 ありえる、ありえるが何となく納得がいかない。マックなのに肉がはみ出てるのも気に食わない。

「じゃあつぎ私! 私はフレイア・ヴェール。職業は騎士で、二次職は錬金術師!」

「はいはい飯田さんは騎士と…… 錬金術師?」

「剣と魔法! あ、二刀流が田中くんとかぶっちゃった」

「それは二刀流とは言わない。文武両道って言うんです」

「いいの! 私が二刀流って言ったからそれでいいんです!」

 まあ、本人がそれでいいならいいか。

「じゃあ、次は私ですね。たまには異性のキャラを、と思って西部劇の賞金稼ぎを作ってきました。アレックス・ボイルが名前で、職業はガンマン。二次職は花火師。火薬を扱うのが上手いんですよ」

「なるほど、自分で弾を作るっていうのはよくある設定だな。面白そう…… 花火師?」

 佐藤さんのキャラ紹介もついついツッコミを入れたくなるのはもはや恒例。ミスマッチと言えないギリギリをついてくるのも彼女の得意技。もうひとひねりあれば突っ込めるのに

「花火を作る人ですよ?」

「いや、それはわかるけど」

「銃も二丁持ってますから、私も二刀流ですね!」

「いやさすがにそれは二丁拳銃だと思うけど」

「細かいと佐藤さんに嫌われますよ」

「うるさいな黒田は。そういうお前はどんなの作ってきたんだよ」

「ふふ。聞いてください。名前はセイイチ・クロダ。つまり僕ですね。職業は学生。二次職はアサシンです!」

「……はい?」

「普段は高校に通うしがない学生。しかし学校が終わると同時に闇から闇へとその身を委ね、人知れず悪を討つ! どうですか」

 どうですか、じゃない。

「表の顔と裏の顔…… 僕もまた、二刀流ですね」

「もういいよ、別に極端に逸脱してないし。それでいこう」

 まあ、まともなキャラメイクは期待していなかったけど、たまにはこういうのも悪くない。

 さあ、今回は誰が最初に罠にはまってくれるかな……?

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