【KAC20221】使い方は正確に【二刀流】

五三六P・二四三・渡

第1話

「きええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 場所はクルル星第六惑星の地下都市の市場。

 路地裏に入った所で、高らかな狂声と共に電工剣がエラクスの頭に向かって振り下ろされた。


「なっ!?」


 エラクスは驚きつつも、懐からこちらも電工剣を取り出して、自分の頭を守った。つるぎ同志がぶつかり合い、火花が散る。

 暗がりの中、電撃が空気中を走ったために、襲撃者の顔が露になる。

 エラクスはその顔は知らなかった。しかしそのクルル星第六惑星人の顔に張り付いた表情は確かな覚えがあった。否、忘れられるはずもない。


「貴様! ドンダムか!」


 エラクスは大きな声で宿敵の名を叫んだ。男はそれを聞いて、口が裂けんばかりの笑みを浮かべる。


「おうよ! よくぞ分かったなドムサ星系の王子よ! 不俱戴天の仇よ! 貴様を探して数光年! 量子の隕石が降る雨を通り抜けてこのような辺境に来たが、勘は鈍ってないようだな! 今こそその電脳の奥に封じ込められた冠をいただくぞ!」

「この薄汚れた肉泥棒め! その体をどうした!」

「おやおや王子様よ、自分の体じゃないことはお互い様だが?」

「この体の主はわが戦友だった……多くの民が死んだ戦争だったのだ。そして彼から私はこの体を受け継いだ。その絆を侮辱することは許さん!」

「それは失礼しましたね王子様よぉ。だがその体が誰のものだとかは興味はない。あるのは先ほども言ったが――」

「冠か……あのような腐りきった王座にまだ固執しているのか。今更戻ってもあの国にあるのは滅びだけだ」

「関係ないね! もう王国だなんだのは! もう理由なんてどうでもいい! 俺は俺のエゴのために王となる!」

「……哀れな男よ……もはや何を求めていたかも忘れ、戦いに憑かれたか……ならばこちらも答えるしかない。もう逃げるのにも疲れた。この長い戦いの終止符を打とう。電脳の冠を奪う方法はたった一つ」

「ああ――決闘だ!」



 ドンダムの叫びと共に両者飛び上がる。摩天楼の路地裏の壁を走り、電工剣を打ち合う。汚染さた霧の中を閃光が断続的に響いた。

 エラクスは素早く手を動かし、相手の攻撃を捌く。フェイントを交え、剣の隙間を縫って、ドンダムに蹴りを入れた。吹き飛ばされた彼はネオンの看板に突っ込んだ。

 追い打ちをかけるように、エラクスは剣で突き刺そうとする。しかし、ドンダムは素早く受け身をとって、身体機能拡張装置を使いつつ、剣を囮にして拳をエラクスに叩きこんだ。


「ぐっ」

「サンダァァァァァァァァクラァァァァァァァァッシュッ!」


 ドンダムが剣を振りがぶった。

 予測マシンをフル稼働し、相手の動きを予知しようとする。しかし、お互いの電脳の性能が一緒なためか、未来を確定できない。ただ戦いは長引き、多くの傷を負う事が察せられた。


――これ以上友の体をご駆使するのは避けたい。

 

そう考えたエラクスは情報体となって、今の体から脱出した。


「また逃げるか卑怯者!」


 そう叫びながらドンダムもまた体を捨てて、情報体となりエラクスの後を追った。

 空気中――正確には空気がある空間を飛び回ってお互いを追い回しながら、地面を抜け、空へと昇っていく。やがて二人の情報体は大気圏を突破し宇宙空間へと飛び出した。



 始まりはありふれた王位継承の話だった。より噛み砕いて単純化して語るなら、ドンダムよりエラクスは王位継承権が高かった。しかし決闘の勝敗でその系照準を変えられるという古典的なしきたりが存在してしまったことと、ドンダムのほうが少しだけ欲が大きかったばかりに、二人は何百年もの間戦うことになったのだった。

 ドムサ星系人は情報生命体であり肉体を持たない。機械に取りついてプログラムとなることもあれば、生物に取りついて意識を借りる――あるいは奪うこともあった。情報体同士では干渉できないため、決闘をするのなら、他の肉体を借りる必要があった。何光年も離れた惑星を渡り歩きながら、二人は永い戦いを続けていたのだった。

 決闘のルールとして必ず守らなければならないものがある。それは乗り移った生命が持つルールに従う事だった。



 情報をも吸い込むブラックホールをよけ、時間の裂け目のワームホールを通った。数光年の追いかけっこが続いている。

 しかし今回はエラクスは逃げ切るつもりはなかった。次の知的生命体が存在する惑星で蹴りをつけるつもりだった。

 そしてようやくそれらしきものを発見した。まずその星系内で一番大きな惑星に目をつける。残留模倣子を調べると、それは木星と呼ばれていることが分かった。

 そして次に二酸化水素が液体として大量に含まれている惑星に視線を移すと、そこには炭素生命体が存在することが分かった。


『あの場所で決着をつけようぞ!』


 声は発せなくともドンダムがそう言っているのがわかった。言われなくてもそうするつもりだった。


 出来るなら武器を持った生物がいい。そしてすでに戦っている途中の生物のほうが体制を整えやすい。その条件に当てはまる生命体を見つけて、二人は乗り移った。

 その惑星の人間は棒状のものを持て戦っている途中だった。

 脳を同期して、惑星の情報を調べる。今の戦いのルールは手に持ったものを相手に当てたら勝ち。

 実に単純だ。


「エラクス!」


 ドンダムが棒を縦一文字に振ってくる。エラクスはそれを棒で防ぎつつ後ろに下がって、軒先の一軒家の塀に飛び上がりよけた――脳を同期したことにより周りの物の名前がわかるようになった。

 塀から家の屋根に飛び乗り、ドンダムが追ってくる。棒を何度も打ち合って、攻撃しあったがどちらも決定打にかけた。


「サンダァァァァァァァァクラァァァァァァァァッシュッ!」


 鍔迫り合いになり、棒を押し付けあう。そのまま長い時間拮抗した。

 この肉体もまた互角のようだ。

 ――これではまた同じことの繰り返しだ……何か……何か打開策はないか。

 そう思いながら周りを見ると、家の下の道路に同じ武器を持った人間が歩いていた。好機ととらえ、棒をかわし、エラクスは家から飛び降りて人間の前に飛び降りた。


「きゃっ!」


 エラクスはその人間から棒を奪い、追ってきたドンダムに素早く振り返った。


「な!? 二本だと!?」


 驚く彼にエラクスは一本を振り下ろした。ドンダムは棒で防ぐが、エラクスはまだもう一本棒を持っていた。

 もう一本を防いでしまうと、今防いでいる棒が振り下ろされてしまう。「積み」の状態だった

 ――ドンダムは何もできず、棒が体に当たって敗北するのを待つしかできなかったのだった。


「俺は……負けたのか……」

「ああ、1000引き分け、私の一勝だ」

「なんだろう……負けたというのに、すがすがしい気分だ……」

「おそらく……長い戦いにうんざりしていたのだろう。お互いにな」

「やっと、終わったのだな。もしかしたら俺は負けたかったのかもしれない……」

「まあ私からしたら迷惑以外の何物でもないが(エラクスはそう言って笑った)」

「はは、違いない」

「しかしすがすがしい気分になっても、負けた以上罰は受けてもらうぞ」

「ああ、もちろんだとも。わかっているよ。俺は決闘で命を落とすのだと思っていた。こうして負けた後話せているだけで、幸せなのかもしれない

な……」

「案外死刑にはならないのかもしれないな。お前が同中にどれだけ被害を広げたかに寄るが」

「誓って殺したことはないよ。ただ……迷惑はかけたな……」

「そうか」



 こうしてドムサ星系の王位継承争いは幕を閉じだのだった。

 二人は肉体をもといた二人に返して、宇宙へと帰っていった。

 もしかしたら流れ星のように見えたのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


「こらー!」


 女性が目の前の二人の少年たちに言った。

 子供たちは目が覚めたようにあたりを見回す。


「あれ?」

「なんか移動してね?」

「ちょっとちょっと、ケンカはダメでしょ! それに返しなさい!」


 少年たちは訳が分からなかった。しかし目の前の女性は起こっているので、謝るしかなかった。彼女が人違いをしているのかと思ったが、現に手に彼女のものが握られていた。


「ごめんなさい……」

「まったくもう。そんなもの振り回してたら危ないでしょ。だいたいそれは戦いあうための物じゃなくてね」


 するとちょうど、雨が降り出してくる。

 三人はとりあえず今まで散々打ち合っていた傘を差して、濡れるのをしのいだのだった。

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