おかかおにぎり

アオヤ

猫の手を借りた結果

俺は休日になる度に唐沢山神社の南側展望台でボ〜ッと眼下の街を眺めている。


嫌な事があっても眼下の蟻の様な車や家、人々の営みを見ていると俺の悩んでいる事がなんだか小さいどうでもいい事に思えてくる。


山々を吹き抜ける春風とウグイスの鳴き声はココに来るだけで俺の心を癒やしてくれる。


なんにも考えずにただココに居る事が俺の幸せな時間だ。


唐沢山神社は戦国の頃は山城だった。

戦国武将もこの場所を物見として眼下の村を眺めていたと思うと儚いロマンも感じる。


ところが現在の山城跡のこの場所は武将が闊歩かっぽするかわりに猫達がウロウロしている。


東京ドーム数個分のこの場所に数十匹の猫が保護されているのだ。

神社(公園)の駐車場に入ると人慣れした猫達が毛づくろいしたりして人間を出迎える。

ほとんどの猫が"人間なんて居ようが居まいが関係無い"というスタンスだ。


まさに猫嫌いな人が訪れたら寒気がするするような場所かもしれない。


でも、ココの猫達は充分に餌を貰っている為かおねだりされた事など殆どない。

鬱陶しくなくていい。

俺の場合はそう感じる時もあれば、それが物足りなく感じる時もある。


今日の俺の気分は・・・

少し物足りなく感じる日だった。

「お〜い 誰かこんな俺の事をかまってくれよ〜!」

俺の心の叫びなど人間も猫も分かってくれるはずなどなかった。


北側の駐車場をでていつもの様に遊歩道をてくてく歩く。

途中、何匹かすれ違ったがみんな「俺は今忙しいんだよ!」という顔をして俺と目があってもプィと顔を背けやがる。


結局、いつもの南側の展望台まで猫に触れ合う事無く来てしまった。


いつもの様にボ〜ッと街を眺める。

春風が優しく俺を包んでくれてる様で心地いい。

春の日射しは暖かだ。

どことなくお腹も空いてきて、持ってきたおかかおにぎりを広げて食べ始めた。


俺の足下がなんだかくすぐったいと思ったら、白い猫が後頭部を擦りつけて絡んできている。

「ん? おかかおにぎり食べたいのか?」

俺はおかかおにぎりを半分にして猫の口元に置いた。

猫は「ん? 何だこれは?」って顔しながらおにぎりにかぶりついた。

俺のおにぎりはおかかに唐辛子をふってあるのでピリ辛なはずなのに平気な顔して食んでいる。

「大丈夫か?辛くないか?」

俺の心配なんて気にして無い様に普通に食べ干す。

猫は俺の顔をみて「ニィ〜」って鳴いた姿が俺にありがとうと言ってるようだった。


白猫は耳が少し欠け空色の目をしていた。

俺は以前飼っていた猫の事を思い出して「ユキ」って呼んでみる。

するとまるで返事をするかの様に「にゃ〜」って鳴いた。


「その猫カワイイですね! 」


不意に後ろから声をかけられた。

神社の参拝に来たんだろう若い女の人だった。


「カワイイですよね! 以前ウチで飼っていた猫と瓜二つで・・・ その猫は白猫なのに肉球は黒かったんですよ。」


猫は俺の足下でゴロンと寝転がってきた。

肉球の色を見ようと俺はその猫の足を裏返してみた。

黒い色だった。


彼女と俺は「あっ!」と声をあげた。


それから彼女と俺は飼ってた猫の話しで盛り上がって連絡先まで交換した。


これは猫がのお礼に・・・?


もしかして縁結びの猫?


ずっと猫も彼女も見守っていけたらいいと思った。

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おかかおにぎり アオヤ @aoyashou

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