2節 後 生かされる男

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 異様な出で立ちだったのだろう。

 峠を降り立ったところにあった小さな村に入った時、驚きの声が響いた。そこで改めて俺は生きていた場所の、どこか違うところに吹き飛ばされた事を改めて理解した。

 村はほとんどが木と藁、土で作られた家で、日本の家らしいものは全く見当たらない。どの家の屋根にも煙突がついており、そこから煙が上がっている。畑にはまばらに人が立っており、どう見ても今時の服じゃない。そもそも手作業や牛らしき生き物を使って農業をやっているところなんて珍しいにもほどがあった。

 少し歩いたところに老婆が畑をいじっていたので声をかけようとした。

「あのっ」

 一瞬ためらいを覚えた。言葉は通じるだろうか。

「なんだい」

 老婆は俺を見た後立ち上がった。白い肌をしているのに流暢な日本語だった。

 少し安心したとともに、さらなる不安が立ち上がった。とりあえず声をかけたはいいが何を聞こうか。なにも考えていなかったのだ。

 ここはどこですか、なんて聞いても不思議がられるだろうし、どうしたらいいか。

 その時、思い出したかのように腹の音が鳴った。

「あの、何か食べるものありませんか」

 なんともまあ情けない言葉がこの世界での第一声だった。


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「マコト殿。そろそろつきますよ」

「ああ」

 日も落ちてきた頃、町の明かりが馬車からも見えてきた。

「このまま入った後、ロスターニャのホテルにそのまま入っていただきます。その後、明日の式典を執り行う者が来ますので、一階のロビーで改めて集合していただきます」

 来訪者マコト・リグレーとしての本格的な一日が始まるのだな、と思いながらハーズベルグを見た。目を輝かせながら俺に話しかけてくる。

「今夜はさぞ疲れたと思いますから、式典の流れを聞いた後はゆっくりお休みください。明日が初の公務であるとすでにお伝えしておりますので」

「わかった」

 そして数分ほど置いた後、彼はゆっくりと口を開いた。

「それと、マコト殿」

「なんだい」

「私は、もし仮に貴方がおっしゃるような方だったとしても、貴方を卑下したりいたしませんよ。私もまた立身出世のために故郷を捨てた親不孝者のようなものですから」

「それはいったい……」

 それ以上彼は答えなかったし、無理やり聞こうとも思わなかった。

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