最終話「吾妻鏡・空白の3年間」

 鎌倉幕府の歴史を記したとされる『吾妻鏡』

 収集や歴史書の参考に徳川家康を始めとする徳川家が関係していた逸話は意外と知られていない。徳川の時代から現代に至るまで研究されている歴史書が、鎌倉幕府の初代将軍が死に至る3年間について語られていないことは諸説あるが未だに謎だという。


 自らの行いのせいもあってか、初期から頼朝を支えてきた者たちの一部はさとへ帰り、人を信用できなくなっていたせいで些少な武力の集結さえ謀反・謀略の兆しありと家臣や兄弟を次々と流刑や討伐をした頼朝の心は既に壊れていた。

「頼朝さん、自分の判断の末にこうなったって、分かってるでしょ?」

 歴史に名は残っていないとはいえ、長年、傍で頼朝を見守ってきたのは田原総一朗ただ一人となった。

「総一朗、儂は何処で道を間違えたんだろうか?何時だったか…じゃーなりすとという仕事は事象を伝えるだけでなく、人物の観察もすると言っておったではないか」

 総一朗が頼朝の前に現れた日と同じように仏に向かい手を合わせているが、呟いているのは総一朗への問答だった。

「私もこの時代がこんなに荒れていたとは思ってませんでしたよ。戦はあるが優雅でもっと緩い時代なら、頼朝さんは将軍になっていなかったんじゃないかな。正直言うとね、僕、初対面の時、頼朝さんどっかで見たことある!と口に出しちゃったし」

「儂もそうだった。お主の顔を何処か見たような。ところで総一朗。何故、ここまで儂についてきたんだ?」

「好奇心ですよ」

「それだけ?」

「ええ」

「もっと無いの?ほら、石橋山の事とか、曽我兄弟の時とか九郎の討伐命ぜられた時に…さぁ」

「そんな事したら、歴史が変わってどエラいことになりますから」

「?」

「僕ね、信じてもらえないだろうけど…あなたが死んだ後の遠い未来からこの時代に放り込まれたんですよ」

 やっと本当の事を言えた安堵感も束の間だった。

 館の外からあの時と同じ青い光が流れ込んできていた。総一朗がその光に触れた途端、一気に老けていく。

「そ、総一朗?」

「どうやらお別れのようですな」

「わ…俺もついて行く!!」

 総一朗にしがみつく頼朝。

「えぇ!?」

 青い光が二人を包み、より一層光を強く放つ。


「「いててって!!!」」

 二人が降り立った場所はNHKの廊下だった。時は2022年。大河ドラマで初期の準主役に源頼朝の名がある、撮影スタジオ前で二人はぶつかるように弾け飛んだ。

「大丈夫ですか?」

 スタッフから声を掛けられる二人。そして互いの顔を見てニヤリとする二人。

 何事もなかったかのように互いに会釈を交わすとそれぞれの仕事へと戻っていった。

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田原総一朗氏、平安時代末期に転送されても朝まで無双する ににに @_Ninini_

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