二刀流シェパード大活躍

アほリ

二刀流シェパード大活躍

 ジャーマンシェパード犬のアイ。彼女は『二刀流の犬』と異名を持っていた。


 ある時は、芸達者なタレント犬。


 またある時は、様々な凶悪事件捜査に大活躍する警察犬。


 今日もシェパード犬のアイは、『二刀流』の顔をを演じている。


 というのもこのシェパード犬のアイ。実はとあるバラエティー番組の企画で、

 「エリート警察犬に挑戦!!」

 で、警察犬の敏腕訓練士の元でガチで訓練を受けたら、見事に並みいる候補犬達を押し置いて遥かに好成績を得て首席で合格してしまったのだ。


 これには、警視庁もノリノリになって今では交通安全キャンペーンの促進マスコットになったり、タレントとしては主役格の刑事ドラマが撮影されたりと、八面六臂の大活躍をしていた。


 しかし、そんなマリには弱点があった。


 風船だった。


 別に、シェパード犬のアイは風船がフワフワと動いたり、風船が割れる音を嫌がるという訳でもなく、逆に風船を見ると直ぐ様遊ぶ事に夢中になって我を忘れてしまう事だった。


 「わーーー!!風船風船風船風船!!」


 シェパード犬のアイは、飾ってあったり通りすがりの子供が風船を持ってたりすると直ぐに興奮してとっさに猛スピードで突っ込んできて、狂ったように鼻で風船を突いたり牙や爪で風船を割って来るのだ。


 「風船風船風船風船!!あたしに!!あたしにちょうだーーーーい!!」ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!


 「なっなに?!大きな犬!!」「きゃーーー!!いぬーーー!!」


 「こらっ!アイ!何してんだ!」


 「ギクッ!!」


 こんな性格だから、捜査の時に街に風船があると注目しないように警察犬のハンドラーはシェパード犬のアイのリードをグイッ!!と引っ張った。


 しかし、タレントとしてのシェパード犬のアイはバラエティー番組では大活躍だ。

 何故なら、風船突きや風船割りでタレント達とワイワイキャーキャーとはしゃぎ回る事にシェパード犬のアイは大きな至福を感じていた。


 割れた風船の破片まみれでおどけるシェパード犬のアイと、真剣な眼差しと鋭い鼻や卓越した足腰で巨悪を追い詰めるシェパード犬のアイ。


 正に『二刀流』のシェパード犬アイだ。



 ある日の事だった。



 「事件発生!!連続殺人犯が逃走中!!」


 直ぐ様警察は捜査班を立ち上げた。


 「警察犬はどうした?!」


 「すいません。今日に限って、みんな別の事件の捜査に駆り出されています。」


 「なにぃーーーーー!!」


 捜査班は頭を抱えた。


 「あ!います!警察犬が1匹!」


 「えっ?!まさか・・・」


 「そうです!!うちには、アイちゃんがいますっ!!」


 「ちょ・・・ちょっと待った!!アイちゃんは非番で、今テレビバラエティーの収録中ですよ!!」


 「そんなことどうでもいいだろ?!テレビ局に電話して、アイちゃんをテレビ局から連れ出して来い!!」


 「わ・・・解りましたーーーっ!!」


 

 ジリリリリリリリ!!!



 とあるテレビ局に、警察から電話が来た。


 「はいはいモシモシ?え?何?警察犬が全部仕事中で居ないから、アイをテレビ収録から早く連れ出して捜査に参加させろっ・・・て?

 すいませーん!今、アイは逢えません!

 「冗談言ってる場合か?」って?冗談じゃありませんよ!!

 今、貴方達のアイちゃんは手に負えない状態なんですけど、いいんですかぁ?」


 「だから!兎に角!テレビ局からこっちによこしてください!アイちゃんを!!

 収録なんて、捜査が終わってから充分時間があるでしょ?!」


 「他の出演タレントのスケジュールが・・・」


 「何ごねてるんだ!!こっちは凶悪犯罪者が逃走中なんだ!!

 住民に何か起きたら、テレビ局は責任取れるのか!!」


 「だから国家権力は・・・」「は?」「な、何でもないです。」



 本当にシェパード犬のアイは手に負えない状態だった。


 「ちょっと・・ ・この状態で捜査に出すんですか?」

 

 シェパード犬のアイは、バラエティー番組収録の真っ最中そのままの状態だった。


 「風船風船風船風船!!目の前に風船風船風船」ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!


 身体中に風船を結んで、アイ自信もかなり興奮して、肝心な鼻もゴムの匂いだけしか受け付けないとばかりに鼻の穴をパンパンにして膨らませてハッ!ハッ!ハッ!ハッ!と舌を垂らして荒い息をして踊るように警察犬のハンドラの周りをはしゃいだ。

 まだ、シェパード犬のアイは番組収録してるんだと思い込んでいたのだ。


 「あーっ!!もう!!風船邪魔!!アイ、突然だけど仕方ない。

 アイ、警察犬の仕事だ。この犯人の匂いを辿れ。」


 警察犬のハンドラーは、凶悪犯の残したハンカチをアイの顔の前にたなびく風船を避けて黒光りする鼻に近付けた。




 くんかくんかくんかくんかくんかくんか。



 一瞬、シェパード犬のアイは精悍な警察犬の顔をした。

 しかし、それも束の間。目の前の風船の匂いを嗅いだとたんにまた興奮してはしゃいでしまった。


 「んもぉ!!また犯人の匂いを嗅がせなきゃ!!風船邪魔だから外そうかな?」


 「駄目だ!!外す時間は無い!!そうこうしてるうちに、犯人は逃げ切ってしまう!!」


 「解ったよ解ったよ!!」


 シェパード犬のアイはやっと精悍な警察犬の顔になり、くんかくんかと地面や周りの匂いを嗅いで犯人の逃走経路を探った。


 「あーーっもう!!風船邪魔!!まるでアイちゃんじゃなくて、風船の束を牽いてる感じだよ。」


 警察犬のハンドラーはブツブツ文句を言いながら、『警察犬モード』のアイのリードを持っていた。



 くんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか・・・



 ぽーん!ぽーん!ぽーん!ぽーん!



 「ふうせん・・・ふうせん・・・ふうせん・・・ふうせん!!風船!!風船!!」


 突然、シェパード犬のアイは止まった。



 ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!



 「なんだ?アイちゃん!犯人見付かったか?!・・・っておい!!」


 なんと、シェパード犬のアイは身体中に結ばれた風船に気を取られてピョンピョンとはしゃぎまわった。


 「おい!おい!!アイちゃん!!風船なんて今どうでもいいんだよ!!犯人は!!犯人!!犯人を探せ!!」




 「なーに?この馬鹿な犬!!風船?ギャハハハハ!!チンドン屋かよ!!」



 「こ、こいつ!!」


 警察犬のハンドラーと、付き添った刑事の目の前に現れたのは、今捜査している連続殺人犯だったのだ!!


 「犯人発見!!犯人発見!!至急!!」


 「おめえ、何連絡してんだ?」



 サッ!!



 連続殺人犯は、持っていたナイフを刑事や警察犬のハンドラーに向けて突き立ててきた。


 「犯人!!無駄な抵抗はやめろ!!」


 「こ、この・・・!!」


 連続殺人犯のナイフの攻撃は激しくなり、刑事とハンドラーは必死に交わして護身した。


 「ころしてやる!ころしてやる!へへへへ!!」



 さっ!!



 パァーーーーーーーーン!!


 パァーーーーーーーーン!!


 パァーーーーーーーーン!!



 連続殺人犯の掠めたナイフが、シェパード犬のアイの風船に当たって次々とパンクした。


 「・・・?!」


 「アイちゃん!!大丈夫か?!」



 ううう~~~~!!ううううう~~~~~~~~!!


 シェパード犬のアイは、牙を剥いてしかめっ面をしてナイフを突きつける凶悪犯に向かって唸りをあげて威嚇した。


 「よくも・・・よくも!!あたいの風船を割ったわね!!

 あたいはあんたを絶対許さない!!」


 「な、何だよこの風船だらけのワン公は・・・!!」


 凶悪犯は、ナイフをアイに向けてブルブル震えた。


 「警察犬だよ!!」


 警察犬のハンドラーから放たれたシェパード犬のアイは身体中の風船や割れた風船をたなびかせて、凶悪犯の腕に噛みついた。


 「痛い!!痛い!!離せ!!このワン公!!」


 凶悪殺人犯は、シェパード犬のアイに噛みつかれた腕のナイフを落とすと仰け反ってのたうち回った。


 「よし!!今だ!!」


 警察は突入して、凶悪殺人犯を羽交い締めして手錠をかけた。


 「よくやったぞ!アイちゃん。あーあ、テレビ番組で使う風船がこんなに割れちゃって。

 番組収録中に呼び出してごめんな。」


 刑事達は、割れた風船にションボリしているシェパード犬のアイの頭を軽く撫でた。


 ≪番組ドタキャン犬アイちゃん大手柄≫


 芸術ニュースでこの大捕物劇を報じて以来、シェパード犬のアイの舎にはファンから送られた風船の束で常時覆われていた。


 「いいなあ、風船。」


 「いいないいな!」


 他の警察犬達は、アイの風船の館と化した舎に羨望した。


 「じゃあ、君達もあたいと同じタレント犬の二刀流で生きればねえ。」


 「遠慮しとく。」









 ~二刀流シェパード大活躍~


 ~fin~

 

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