十二 獅子舞 2018年 1月
笛や太鼓、チャンチキの音が聴こえる。
「獅子舞が始まったわ」
僕らは急いで
ショッピングモール前の広場には既にかなりの人数が集まっている。
見物客の最前列にいた重原綾が、僕らを手招きした。
「やっぱりいたわ、綾」
富山出身の綾は獅子舞に思い入れがある。子供の頃、市の獅子舞保存会で
大太鼓、
ただ僕は、その獅子舞に少し物足らなさを感じていた。昔見た獅子舞にはもっと派手で鮮烈な印象があったような気がする。
獅子舞の間、
店員のひとりが獅子に祝い餅の袋を
「ハヤトちゃん、あけましておめでとう」
お正月くらい親子水入らずで過ごした方がいいと遠慮する綾を、
「
美子は鼻で笑った。
「本当はちょっと寂しかったんだ」
大晦日は独りで寂しく過ごしたと綾は照れくさそうに笑った。
「わあ、炬燵に蜜柑! 懐かしい」
蜜柑を山盛りにしたフルーツバスケットが炬燵の上に置いてある。
大晦日の夕方、僕はクロゼットから炬燵を出してリビングに置いた。
越後人にとって炬燵は年越しの必需品だ。越後では大晦日に大きめの炬燵を用意する。天板にその年一番の御馳走を並べるためだ。年取り魚の鮭や年越し蕎麦はもちろん、海老や蟹、寿司、芋煮、
我が家では、そこまでの贅沢はしなかった。年取り魚の塩鮭と年越蕎麦は欠かせなかったが、他にはショッピングモールの食品売り場で買ってきた寿司と蜜柑を食卓に並べただけだ。
「今までで一番幸せな一年だったわ」
昨日の大晦日、美子はその言葉で一年を締め括った。
「お餅を焼いてお雑煮とお汁粉を温めるから、その間、隼人をお願い」
僕ら夫婦はキッチンに入った。
越後の餅雑煮には十種類以上の具が入る。日本一
トト豆の水切りが終わった時だった。
「ねえ、ハヤちゃんがつかまり立ちをしているよ」
綾が僕らを呼んだ。
炬燵の天板に手をついて隼人がつかまり立ちをしていた。
爆竹の音が聴こえたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます