第49話 まだ見ぬ色を引き寄せる時

二人で迎える初めての新年、

兄が笑顔でプレゼントしてくれたのは

綺麗な花の絵が描かれたラベルのワイン。

その夢見るような色合いに、

やって来る春を想って胸が弾む。


打ち鳴らされる鐘の音に

お気に入りのグラスを合わせれば

一足早く夜空に花が咲いた。


ロゼ色の泡の向こうに黄金が弾ける。

いつもは我が物顔の漆黒の闇が

華やかな光の女王に膝を折る。

丘の上の家は特等席だった。


それは小さい頃にはなかったもの。

流れた時間を感じずにはいられない。

嬉しいような切ないような、

けれど今二人でいることが

何よりも大きなこと。


薪の爆ぜる音も楽しい暖炉の前で

買ったばかりの刺繍糸を取り出し、

手持ちの一番大きな刺繍枠に

真新しいリネンを広げる。


何を刺すのかと

兄が笑顔で覗き込んだけれど

まだ何も決まってはいない。

新しい年に二人で描く時間が

色鮮やかで美しいものになってほしいと、

兄に微笑み返しながらそう願った。


彩られる終わりと始まりの時間に

いつまでも二つの笑い声が重なれば、

再び訪れた闇と静寂さえもが

見こともないようなきらめきに満たされる。


欲しがって、素直に。

もっと、わがままに。

もっと、欲張りに。


素敵な呪文に頷いて兄の胸に飛び込む。

求め続けてきた温もりに

遠い日の淀みは甘く溶け、

私たちの次なる一ページが

白く眩しい扉を開けた。


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